《さま》のラプンツェルをのぞきまして、食《た》べたい、食《た》べたいと思《おも》いつめて、死《し》ぬくらいになりましたのです。」
 それを聞《き》くと、魔女《まじょ》はいくらか機嫌《きげん》をなおして、こう言《い》いました。
「お前《まえ》の言《い》うのが本当《ほんとう》なら、ここにあるラプンツェルを、お前《まえ》のほしいだけ、持《も》たしてあげるよ。だが、それには、お前《まえ》のおかみさんが産《う》み落《おと》した小児《こども》を、わたしにくれる約束《やくそく》をしなくちゃいけない。小児《こども》は幸福《しあわせ》になるよ。私《わたし》が母親《ははおや》のように世話《せわ》をしてやります。」
 男《おとこ》は心配《しんぱい》に気《き》をとられて、言《い》われる通《とお》りに約束《やくそく》してしまった。で、おかみさんがいよいよお産《さん》をすると、魔女《まじょ》が来《き》て、その子《こ》に「ラプンツェル」という名《な》をつけて、連《つ》れて行《い》ってしまいました。
 ラプンツェルは、世界《せかい》に二人《ふたり》と無《な》いくらいの美《うつく》しい少女《むすめ》になりました。少女《むすめ》が十二|歳《さい》になると、魔女《まじょ》は或《あ》る森《もり》の中《なか》にある塔《とう》の中《なか》へ、少女《むすめ》を閉籠《とじこ》めてしまった。その塔《とう》は、梯子《はしご》も無《な》ければ、出口《でぐち》も無《な》く、ただ頂上《てっぺん》に、小《ちい》さな窓《まど》が一つあるぎりでした。魔女《まじょ》が入《はい》ろうと思《おも》う時《とき》には、塔《とう》の下《した》へ立《た》って、大《おお》きな声《こえ》でこう言《い》うのです。
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「ラプンツェルや! ラプンツェルや!
 お前《まえ》の頭髪《かみ》を下《さ》げておくれ!」
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 ラプンツェルは黄金《きん》を伸《の》ばしたような、長《なが》い、美《うつ》くしい、頭髪《かみ》を持《も》って居《い》ました。魔女《まじょ》の声《こえ》が聞《き》こえると、少女《むすめ》は直《す》ぐに自分《じぶん》の編《あ》んだ髪《かみ》を解《ほど》いて、窓《まど》の折釘《おれくぎ》へ巻《ま》きつけて、四十|尺《しゃく》も下《した》まで垂《た》らします。すると魔女《まじょ》はこの髪《かみ》へ捕《つか》まって登《のぼ》って来《く》るのです。
 二三|年《ねん》経《た》って、或《あ》る時《とき》、この国《くに》の王子《おうじ》が、この森《もり》の中《なか》を、馬《うま》で通《とお》って、この塔《とう》の下《した》まで来《き》たことがありました。すると塔《とう》の中《なか》から、何《なん》とも言《い》いようのない、美《うつく》しい歌《うた》が聞《き》こえて来《き》たので、王子《おうじ》はじっと立停《たちど》まって、聞《き》いていました。それはラプンツェルが、退屈凌《たいくつしの》ぎに、かわいらしい声《こえ》で歌《うた》っているのでした。王子《おうじ》は上《うえ》へ昇《のぼ》って見《み》たいと思《おも》って、塔《とう》の入口《いりぐち》を捜《さが》したが、いくら捜《さが》しても、見《み》つからないので、そのまま帰《かえ》って行《ゆ》きました。けれどもその時《とき》聞《き》いた歌《うた》が、心《こころ》の底《そこ》まで泌《し》み込《こ》んで居《い》たので、それからは、毎日《まいにち》、歌《うた》をききに、森《もり》へ出《で》かけて行《ゆ》きました。
 或《あ》る日《ひ》、王子《おうじ》は又《また》森《もり》へ行《い》って、木《き》のうしろに立《た》って居《い》ると、魔女《まじょ》が来《き》て、こう言《い》いました。
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「ラプンツェルや! ラプンツェルや!
  お前《まえ》の頭髪《かみ》を下《さ》げておくれ!」
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 それを聞《き》いて、ラプンツェルが編《あ》んだ頭髪《かみ》を下《した》へ垂《た》らすと、魔女《まじょ》はそれに捕《つか》まって、登《のぼ》って行《ゆ》きました。
 これを見《み》た王子《おうじ》は、心《こころ》の中《うち》で、「あれが梯子《はしご》になって、人《ひと》が登《のぼ》って行《い》かれるなら、おれも一つ運試《うんだめ》しをやって見《み》よう」と思《おも》って、その翌日《よくじつ》、日《ひ》が暮《く》れかかった頃《ころ》に、塔《とう》の下《した》へ行《い》って
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「ラプンツェルや! ラプンツェルや!
 お前《まえ》の頭髪《かみ》を下《さ》げておくれ!」
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というと、上《うえ》から頭髪《かみのけ》がさがって来《き》たので、王子《おうじ》は登《のぼ》って行《ゆ》きま
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