まいました。
 おひめさまが、そんなふうに泣きかなしんでいますと、どこからか、こうおひめさまによびかける声がしました。
「おひめさま。どうなすったの、おひめさま。そんなに泣くと、石だって、おかわいそうだと泣きますよ。」
 おや、とおもって、おひめさまは、声のするほうをみまわしました。そこに、一ぴきのかえるが、ぶよぶよふくれて、いやらしいあたまを水のなかからつきだして、こちらをみていました。
「ああ、水のなかのぬるぬるぴっちゃりさん、おまえだったの、いま、なにかいったのは。」と、おひめさまは、なみだをふきながらいいました。「あたしの泣いているのはね、金のまりを泉のなかにおとしてしまったからよ。」
「もう泣かないでいらっしゃい。わたしがいいようにしてあげますからね。」
「じゃあ、まりをみつけてくれるっていうの。」
「ええ、みつけてあげましょう。でも、まりをみつけて来てあげたら、なにをおれいにくださいますか。」
「かわいいかえるさん。」と、おひめさまはいいました。「おまえのほしいものなら、なんでもあげてよ。あたしのきているきものでも、光るしんじゅでも、きれいな宝石《ほうせき》でも、それから金のかんむりでも。」
「いいえ、わたしはそんなものがほしくはないのです。けれど、もしかあなたがわたしをかわいがってくだすって、わたしをいつもおともだちにして、あなたのテーブルのわきにすわらせてくだすって、あなたの金のお皿から、なんでもたべて、あなたのちいさいおさかずきで、お酒をのましていただいて、よるになったら、あなたのかわいらしいお床《とこ》のそばで、ねむってよいとおっしゃるなら、わたしは水のなかから、金のまりをみつけてきてあげましょう。」と、かえるはいいました。
「ええ、いいわ、いいわ。金のまりをとってきてくれさえすれば、おまえのいうとおり、なんでもやくそくしてあげるわ。」と、おひめさまはこたえました。そういいながら、心の中では、(かえるのくせに、にんげんのなかま入りしようなんて、ほんとうにずうずうしい、おばかさんだわ)と、おもっていました。
 かえるは、でも、約束《やくそく》のとおり、水のなかにもぐって行きました。しばらくすると、ちゃんと金のまりを口にくわえて、ぴょこんとうかび上がってきました。そして、
「さあ、ひろってきましたよ。」
 そういって、草のなかにまりをおきました。とこ
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
グリム ヴィルヘルム・カール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング