さまを怒らせたりするときには、すこし気がみじかくはないでしょうか?」と、正直にいいました。
「いや、あなたのいうとおりじゃ、わしはあの子をかあいがっているが、がまんのならぬほどわしをじらすようなこともする。こんなふうだと、どうなるかな。」
「申しあげましょうか?あの人、家出しますわ。」
老人の顔は、さっと青くなり、美しい男の肖像画を見あげました。それは、わかいころ家出して、老人の意にそむいて結婚したローリイの父母でありました。ジョウは、老人がくるしい過去を思い出しているのを察し、あんなこといわなければよかったと後悔しました。それで、ジョウはあわてていいました。
「でも、あの人、よっぽどのことがないと、そんなことしませんわ。ただ勉強にあきると、そんなことをいっておどかすだけなんです。わたしだって、そんなことしたいと考えます。髪をきってからよけいそうです。だから、二人がいなくなったら、二少年をさがす広告を出して、インドいきの船をおさがし下さい。」
ジョウは、こういって笑ったので、老人もほっとしたようでした。
「おてんば娘は、とんでもないことをいいなさる。子供はうるさいが、いなくちゃこまる。もうなんでもないといって、食事にあの子をつれて来て下され。」
ジョウは、わざと、すなおにいうことをきかないで、詫状を書いて形式的にあやまれば、ローリイは、じぶんのばかもわかり、きげんをなおして来ますといつわりました。
「あなたは、なかなかくえない子じゃ。でも、あなたやベスに、いいようにされてもかまわん。さ、書こう。」
老人は、本式の詫状を書きました。ジョウは、それを持ってローリイの部屋にいき、扉の下からそれをなかへいれ、きげんをなおして、おりて来るようにいいました。ローリイは、すぐおりて来ました。階段のところで、
「きみは、えらいな。しかられなかった?」
「よく、わかって下すったわ。さ、新らしい出発よ。御飯を食べれば気もはれる。」
ジョウは、さっさと帰り、ローリイはおじいさんにあやまり、おじいさんもすっかりきげんをなおし、この事件はすっかり片づき[#「片づき」は底本では「片すぎ」]ました。
けれど、メグは、この事件のために、ブルック氏へ近づいたのでした。あるとき、ジョウは、切手をさがすために、メグの机のひき出しをさがすと「ジョン・ブルック夫人」という落書のしてある紙片があり
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