は遠い昔からあの連中を識っています。その頃わたしは奉公人ではなしに、ここの家に住んでいたことがあるのです。あの連中はいずれ私を殺すだろうと思っていますが、そんなことは構《かま》いません。わたしはこの通りの年寄りですから、どの道《みち》やがて死ぬからだです。死ねばあの連中と一緒になって、やはりこの家に住んでいることが出来るのです〉
 いや、どうも驚いたね。女はそんなことを実に怖ろしいほど平気で話しているのだ。僕は薄気味が悪くなって、もう何も話す元気がなくなったので、早《そう》そうに立ち去ってしまった。もちろん約束通りに一週間分の間代《まだい》を払って来たが、そのくらいのことで逃げ出せれば廉《やす》いものさ」
「不思議だね」と、わたしは言った。「そう聞くと、僕はぜひその化け物屋敷に寝てみたいよ。君が不名誉の退却をしたという、その家のありかを後生《ごしょう》だから教えてくれないか」
 友達はそのありかを教えてくれた。彼に別れたのち、わたしはまっすぐにかの化け物屋敷だという家へたずねて行くと、その家はオックスフォード・ストリートの北側で、陰気ではあるが家並《やなみ》の悪くない抜け道にあったが、家はまったく閉《し》め切って、窓に貸間の札もみえない。戸を叩いても返事がない。仕方がなしに引っ返そうとすると、となりの空地にビールの配達が白い金属の鑵《かん》をあつめていて、わたしのほうを見かえりながら声をかけた。
「あなたはそこの家で誰かをお尋《たず》ねなさるんですか」
「むむ。貸家があるということを聞いたので……」
「貸家ですか。そこはJさんが雇い婆さんに一週間一ポンドずつやって、窓の開《あ》け閉《た》てをさせていたんですがね。もういけませんよ」
「いけない。なぜだね」
「その家は何かに祟《たた》られているんですよ。雇い婆さんは眼を大きくあいたままで、寝床のなかに死んでいたんです。世間の評判じゃあ、化け物に絞《し》め殺されたんだと言いますが……」
「ふむう。そのJさんというのは、この家の持ち主かね」
「そうです」
「どこに住んでいるね」
「G町です」と、配達はその番地をも教えてくれた。
 わたしは彼にいくらかの心付けをやって、それから教えられた所へたずねて行くと、主人のJ氏は都合よく在宅であった。J氏はもう初老を過ぎた人で、理智に富んでいるらしい風貌と、人好きのするような態度をそな
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