のかといくたびか疑ったほどに、彼の冗談のあるものは巧《うま》くあたった。
「どなたからそんなことをお聞きになりました」と、ほほえみながら彼女は訊《き》いた。
「君の親しい人の友達からさ」と、トムスキイは答えた。「ある非常に有名な人からさ」
「では、その有名なかたというのは……」
「その人の名はヘルマンというのだ」
リザヴェッタは黙っていた。彼女の手足はまったく感覚がなくなった。
「そのヘルマンという男はね」と、トムスキイは言葉をつづけた。「ローマンチックの人物でね。ちょっと横顔がナポレオンに似ていて、たましいはメフィストフェレスだね。まあ、僕の信じているところだけでも、彼の良心には三つの罪悪がある……。おい、どうした。ひどく蒼《あお》い顔をしているじゃないか」
「わたくし、少し頭痛がしますので……。そこで、そのヘルマンとかおっしゃるかたは、どんなことをなさいましたの。お話をして下さいませんか」
「ヘルマンはね、自分のあるお友達に非常な不平をいだいているのだ。彼はいつも、自分がそのお友達の地位であったら、もっと違ったことをすると言っているが……。僕はどうもヘルマン自身が君におぼしめしが
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