ろう」
彼はポケットからピストルを把《と》り出した。
それを見ると、夫人は再びその顔に烈《はげ》しい感動をあらわして、射殺されまいとするかのように頭を振り、手を上げたかと思うと、うしろへそり返ったままに気を失った。
「さあ、もうこんな子供じみたくだらないことはやめましょう」と、ヘルマンは彼女の手をとりながら言った。「もうお願い申すのもこれが最後です。どうぞわたくしにあなたの三枚の切り札の名を教えて下さい。それとも、お忌《いや》ですか」
夫人は返事をしなかった。ヘルマンは彼女が死んだのを知った。
四
リザヴェッタ・イヴァノヴナは夜会服を着たままで、自分の部屋に坐って、深い物思いに沈んでいた。邸《やしき》へ帰ると、彼女は忌《いや》いやながら自分の用をうけたまわりに来た部屋付きの召使いにむかって、着物はわたし一人で脱ぐからといって、早《そう》そうにそこを立ち去らせてしまった。そうして、ヘルマンが来ていることを期待しながら、また一面には来ていてくれないようにと望みながら、胸を躍《おど》らせて自分の部屋へ昇って行った。ひと目見ると、彼女は彼がいないことをさとった。そうし
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