をかがめて、もう一度繰り返して言ったが、老夫人はやはり黙っていた。
「あなたは、わたくしの一生の幸福を保証して下さることがお出来になるのです」と、ヘルマンは言いつづけた。「しかも、あなたには一銭のご損害をお掛け申さないのです。わたくしはあなたが勝負に勝つ切り札をご指定なさることがお出来になるということを、聞いて知っておるのです」
 こう言って、ヘルマンは言葉を切った。夫人がようやく自分の希望を諒解《りょうかい》して、それに答える言葉を考えているように見えたからであった。
「それは冗談です」と、彼女は答えた。「ほんの冗談に言ったまでのことです」
「いえ、冗談ではありません」と、ヘルマンは言い返した。「シャプリッツキイを覚えていらっしゃるでしょう。あなたはあの人に三枚の骨牌《かるた》の秘密をお教えになって、勝負にお勝たせになりましたではありませんか」
 夫人は明らかに不安になって来た。彼女の顔には烈《はげ》しい心の動揺があらわれたが、またすぐに消えてしまった。
「あなたは三枚の必勝骨牌をご指定なされないのですね」と、ヘルマンはまた言った。
 夫人は依然として黙っていたので、ヘルマンは更に言
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