がって寝てしまいます。それですから、十一時半ごろにおいでください。階段をまっすぐに昇っていらっしゃい。もし控えの間で誰かにお逢《あ》いでしたらば、伯爵夫人がいらっしゃるかとおたずねなさい。きっといらっしゃらないと言われましょうから、その時は仕方がございませんからいったん外出なすって下さい。十中の八九までは誰にもお逢いなさらないと存じます。――召使いたちがお邸におりましても、みんな一つ部屋に集まっていると思います。――次の間をおいでになったらば、左へお曲がりなすって、伯爵夫人の寝室までまっすぐにおいで下さると、寝室の衝立《ついたて》のうしろに二つのドアがございます。その右のドアの奥は、伯爵夫人がかつておはいりになったことのない私室になっておりますが、左のドアをおあけになると廊下がありまして、さらに螺旋形《らせんがた》の階段をお昇りになると、わたくしの部屋になっております」
 ヘルマンは指定された時刻の来るあいだ、虎のようにからだを顫《ふる》わせていた。夜の十時ごろ、彼はすでに伯爵夫人邸の前へ行っていた。天気はひどく悪かった。風は非常に激しく吹いて、雨まじりの雪は大きい花びらを飛ばしていた
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