、たれ一人として彼女に注目する者はなかった。
舞踏会に出ても、彼女はただ誰かに相手がない時だけ引っ張り出されて踊るぐらいなもので、貴婦人連も自分たちの衣裳の着くずれを直すために舞踏室から彼女を引っ張り出す時ででもなければ、彼女の腕に手をかけるようなことはなかった。したがって、彼女はよく自己を知り、自己の地位をもはっきりと自覚していたので、なんとかして自分を救ってくれるような男をさがしていたのであるが、そわそわと日を送っている青年たちはほとんど彼女を問題にしなかった。しかもリザヴェッタは世間の青年たちが追い廻している、面《つら》の皮の厚い、心の冷たい、年頃《としごろ》の娘たちよりは百層倍も可愛らしかった。彼女は燦爛《さんらん》として輝いているが、しかも退屈な応接間からそっと忍び出て、小さな惨《みじ》めな自分の部屋へ泣きにゆくこともしばしばあった。その部屋には一つの衝立《ついたて》と箪笥と姿見と、それからペンキ塗りの寝台があって、あぶら蝋燭が銅製の燭台の上に寂しくともっていた。
ある朝――それはこの物語の初めに述べた、かの士官たちの骨牌《かるた》会から二日ほどの後《のち》で、これからち
前へ
次へ
全59ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
プーシキン アレクサンドル・セルゲーヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング