なず》いて、
「うん。それでこそ、死んだ二人の科学者の、恩に報いられるのだ。しっかりやってくれ」
「はい」「はい」海軍機は、すでに、魔の海――大渦巻の上空を去って、夕靄《ゆうもや》の深く鎖《とざ》した大海原《おおうなばら》を、西方指して飛んでいる。
「大尉殿」僕は、訊ねた。
「何だ」
「この海軍機は、ドイツから輸入したのですか」
「いや、国産だよ」
「へえ、素晴しいなア。こんな優秀機が、もう日本でも出来るンですか」
「出来るとも。もっと素晴しいのが出来かかっているよ。これは、東京帝国大学の航空研究所で設計したものだ。太平洋なぞ、無着陸で往復できるよ」
「ほう、愉快だなア」
「小僧たちも、うんと勉強して、これに負けない飛行機をつくってくれよ」
「つくるとも。大丈夫」
「何だぜ。もう、どろぼう[#「どろぼう」に傍点]船になンか、乗るんじゃないぜ」
「あれは、横浜《ハマ》で、船乗《マドロス》たちに騙《だま》されたのだよ。もう、北洋へなぞ往かずに、うんと勉強するよ」
「よし。陳《チャン》君、君も、うんと勉強したまえよ」
「はい」
「中国も、日本と協力して、もっと強くならなくてはいかんなア。東洋平和のために、日本と協力して、進むンだなア」
「僕は、山路君の、忍耐と、勇気と、仁侠《にんきょう》に感動させられました。日本人と、中国人とは、兄弟のように仲好くなるのが、ほんとうだと、こんどの冒険旅行で、しみじみ感じました」
「それだ。それは、大きな収穫だった。山路君と陳君との友情は、やがて、日本と中国との永遠の友情の楔《くさび》となるのだ」国際優秀機は、太平洋の上空を、秀麗富士の聳《そび》える日本の空を目指して、悠々と飛んでいる。四ヶ月余に亘《わた》る、怪奇な冒険旅行を終えて、故国へ帰る僕は、疲労も、眠気も忘れて、元気一杯、口笛を吹いた。
日本へ帰ってから、人々に、老博士の人造島のことや、白衣の老人の心臓入替の話や、さては、幽霊船のことや、魔の海の大渦巻のことを物語ったが、誰も、それを信じるものが無かった。「そんな莫迦《ばか》なことがあるものか!」一笑に附してしまう。だから、どろぼう[#「どろぼう」に傍点]船を脱れて、巨鯨のお腹《なか》に乗っかって、漂流したなぞといったら、きっと、みんなは、吹き出してしまうだろう。僕は、目下、日本の有名な理学博士の主宰する化学研究所に助手として働い
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