日より風邪《かぜ》の気味にて三週間ばかりぶらぶらし、かた/″\碌《ろく》な事これなく候。(中略)向ふ三四年間は或程度までの金を作る為め雇人として働き、その間は多少読書もし、至つて平静(今までは余りに落付かなかつた)な生活を送る考《かんがへ》に候。近来種々感ずるところあり、如何《いかに》してもこの国に永住の事に決心せしに就《つ》いては、来春早々、此較的人種に区別をおかぬ東部へ出向く考に候。そして相当の資金を得し後は再び田園に引込み、今まで及び昨今のやうでも困るから多少余裕のある趣味ある生活をしたいと思ひ居り候。(後略)
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(前略)この五日より洗濯業研究に着手致し候。昨今は唯《たゞ》器械的に他人の工場内《こうばない》に働き居り候へども二ヶ年位後には本式に独立してやる考に候。
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(前略)不運は何故《なぜ》かくまで執拗《しつえう》に余に附纏《つきまと》ふことに候や。今春は複々《また/\》損失、××銀行破産の為め少しばかりの預金をおぢやんに致し候。その後とて引つゞき一つ所に働き居り候はば斯《か》くまで不如意にも陥らざりしものを、……(中略)当今は渡米以来一等の貧乏に候。今度こそは何とかして或る一定の専門技術を修得し、一日も早く普通労働者の域を脱したく、裁縫学校へ入学志願致し候。いろ/\の抱負もさる事ながら、一人前《ひとりまへ》に自分の口を糊《のり》することが先決問題かと被存候《ぞんぜられさふらふ》。この頃つく/″\その様な事を考へるやうに相成《あひな》り候《さふらふ》。(後略)
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(前略)一昨々年春以来他へ転居候為め、御書面昨日|漸《やうや》く落手致し候次第、その後の御不沙汰《ごぶさた》何とも申訳|無之《これなく》候。迂生事《うせいこと》、昨年七月より近郊にて(現今のところ)約六|反歩《たんぶ》の土地つき家屋を借受け、昨秋切花用として芍薬《しやくやく》二千株程植付け候。されど、今年は勿論《もちろん》、明年とて格別の収入無之かるべく候へば、当分のうちは日曜の外毎夜電車にて下町へ通ひ何かと労働に従事致し居る次第、お問合せの妻帯などは迚《とて》も迚も以ての外のこと、未《いま》だに独立も出来ず相変らずの貧乏書生に候。向ふ三四年中には一度皆様にお目にかゝりに帰朝致したく存じ居候。
 迂生昨年五月以来、一晩も欠かさず冷水浴を継続致居り候為め
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