ったのを、知らない者は無くなってしまいました。若し又、誰か其を知らない者があったとしても、其は少くとも、彼女がわるいのではありませんでした。彼女は、誰も瞞しはしないのですから。
 誰一人として解って呉れませんでしたが、スバーの眼は、総てのことを彼等に語っていました。彼女はあらゆる人々を見廻しました。通じる話は何処にもありません。彼女は、唖の娘の言葉が分って呉れた人々の子供の時から見馴れた顔をどんなに懐しく慕わしく思ったでしょう。彼女の物を言わない胸の裡には、只、心を見透おす神ばかりに聞える、無限の啜泣きがあったのです。
 今度こそ、眼と耳と両方を使って、彼女の良人は眼と同様に耳も働かせた厳重な検査をし、二度目の、物を云える妻と、結婚しました。[#地から1字上げ]〔一九二三年二月〕



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
初出:「少女倶楽部」
   1923(大正12)年2月号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2007年8月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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