さん」は底本では「おおあさん」]だって、じつは、あなたとおなじくらい、かんしゃくもちなんですよ。それに、おかあさんはうち勝とうとしているんです。」
「まあ、おかあさんが? だって、一度だって、かんしゃくを起しなすったの、見たことがありませんわ。」
 ジョウは、おどろしい目をまるくしました。
「なおすのに四十年かかりました。やっとおさえられるようになりました。ほとんど、まい日、怒りたくなるけど、顔に出さぬようになったのです。これからは、怒りたく[#「怒りたく」は底本では「怒りたくない」]ならないようにしたいのですが、それには、もう四十年かかるかもしれません。」
 ああ、その言葉はジョウにとって、どんなお説教より、はげしいおしかりより、よい教訓でありました。そして、四十年も祈りつづけて欠点をなくそうとしたおかあさんのように、じぶんもどうかしてこの欠点をなおしたいと思いました。
「ねえ、おかあさん、どういうやりかたなさるの? 教えて下さい。」
「そう、あたしは、今のあなたより、すこし大きくなったころ、おかあさんをなくしました。あたしは、自尊心が強いので、じぶんの欠点をたれにうち明けることもで
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