ことでした。
 それに、この日、先生はたしかにきげんがわるかったのです。それで、スノーの告げたライムという言葉は、まるで火薬に火をもっていったようなものでした。
「みなさん、しずかに! エミイ・マーチ、机のなかのライムをもってここへ来なさい!」
 となりにいた生徒が、ささやきました。
「みんなもっていくことないわ。」
 そこで、エミイはす早く半ダースほどを、つつみからふり落して、先生のところへもっていきました。先生は、このライムのにおいが大きらいでしたから、顔をしかめて、
「これで、みんなですか?」
「いいえ。」と、エミイは口ごもりました。
「のこりをもって来なさい。」
 エミイは、じぶんの席へ帰り、いわれたとおりにしました。
「たしかに、もうのこっていませんか?」
「うそ、いいません。」
「よろしい、それでは、このきたならしいものを、二つずつもっていって、窓からすててしまいなさい。」
 このはずかしめに、顔をあかくして、エミイは六度も窓へ往復しました。ライムがすてられると、窓の下の往来から子供たちのよろこびの声が起りました。みんなは、その声を聞いて、ライムをおしみ、無情な先生をにくみ
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