ベルへ来たんだわ。」と、いいましたが、女中は、手紙をさしだしながら、
「マーチさんへと、使いの者が申しました。」と、いいました。
「まあ、すてき。どなたから? あなたに恋人があるとは知らなかったわ。」
 みんなは、強い好奇心をいだきました。
「手紙は母から、花はローリイからですわ。」
「まあ、そうなの。」と、アンニイは、みょうな表情でいいました。
 母からの手紙は、みじかいけれど、よい教訓でした。メグはポケットにしまいました。また、花はしずんだ[#「しずんだ」は底本では「じずんだ」]気持をひきたててくれました。その幸福な気持で、メグは、しだとばらをわずかとって、あとは気前よくわけましたので、メグのやさしさに心ひかれたようでした。メグが、みどりのしだを髪にさし、ばらの花を胸にさしたので、服はそのためにいくらかひきたって見えました。
 メグは、その夜、心ゆくまでダンスをしました。みんなが親切にしてくれ、歌をうたえばいい声だとほめ、リンカーン少佐は、あの目の美しい令嬢はどなたと尋ねましたし、マフォット氏は、メグの身体にばねみたいなものがある、ぜひメグとダンスするといいました。
 こうしてたのしくしていたのに、温室のなかに腰かけて、ダンスの相手がアイスクリームを持って来てくれるのを待っていたとき、うしろで話す話し声をふと聞いて、メグは気分をこわされました。
「いくつぐらいでしょう?」
「十七八かしら、」
「あの娘たちのうちの一人が、そういうことに、なったらたいしたものですよ。サリイがいってましたが、あの人たちは、このごろとても親しくしていて、それに、あの老人は娘たちに、まるで夢中になっているんですって。」
「それやマーチ夫人の計略ですよ。娘のほうではそんな気はなさそうだけど、」
 そういったのは、マフォット夫人でした。
「あの子ったら、おかあさんからだなんてうそついて、花がとどいたら顔をあかくしたわ。いい服さえ着せたら、きれいになるでしょうに。木曜日にドレス貸して[#「貸して」は底本では「貸しで」]あげようといったら、あの子、気をわるくするかしら?」
「あの子、自尊心は強いけれど、モスリンのひどい服しかないのだから、気をわるくはしないでしょう。それに今晩の服をやぶくかもしれないから、貸してあげる口実になるわ。」
「そうねえ。あたしローレンスをよんで、あの子をよろこばしてあげましょう。そして、後で、からかってあげましょう。」
 そこへ、ダンスの相手がもどって来ました。メグは、今のうわさ話に怒りをもやし、すぐにも家へ帰って、おかあさんに心の痛みを訴えたくなりました。

 けれど、メグの自尊心は、むろんそのことを[#「ことを」は底本では「ことる」]させるわけもなく、できるだけ、ほがらかにふるまったので、だれもメグの努力に気づきませんでした。
 夜会がおわると、メグはほっとしました。ベットのなかで考えていると、ほてったほおに、涙が流れました。あのおろかなうわさ話は、メグに新らしい世界を開いてくれ、古い平和の世界を根こそぎみだしてしまいました。あわれなメグは、ねぐるしい一夜をあかし、おもいまぶたの、いやな気分で床をはなれました。
 その朝は、だれもぼんやりしていました。娘たちが編物をはじめる気力が出たときには、もうおひるでした。メグは、みんなが好奇心で、じぶんのことを気にしていることを知りましたが、ベルが手をやめて感傷的ないいかたで、こういったので、なにもかもわかりました。
「ねえ、ひな菊さん、木曜日の会に、あなたのお友だちのローレンスさんに招待状を出しましたの。あたしたち、お近づきになりたいし、それに、あなたに対する敬意ですからね。」
「御親切にありがとうございます。でも、あのかた、いらっしゃらないでしょう。七十に近い、お年よりですもの。」
「まあ、ずるい、あたしのいうのは、わかいかたのほうよ。」と、ベルは笑いました。
「わかいかたって、いらっしゃいませんわ。ローリイなら、ローリイなら、まだ子供で、いもうとのジョウくらいでしょう。あたしはこの八月で十七ですもの。」
「あんなりっぱな花をおくって下すって、ほんとにいい方ね。」と、アンニイが、意味ありげにいいました。
「ええ、いつでも下さるの。あたしの家のみんなに。あのかたの家に、いっぱい花があるし、あたしの家ではみんなが花がすきだからです。母とローレンスさんとはお友だちでしょう。だから、あたしたち子供同志も遊びますの。」
 メグは、この話を、うちきってくれればいいと思いました。
「ひな菊さんは、まだ世間のことにうといのね。」と、クララはうなずきながら、ベルにむかっていいました。
「まるで、まだあかちゃんね。」と、ベルは肩をすぼめました。
 そのとき、マフォット夫人が、レースのついた絹の服を着ては
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