ほしいものを犠牲にするのがおしいというように頭をふりました。
「だけど、あたしたちの一ドルを献金したって、たいして兵隊さんの役にたつとは思えないわ。あたしはおかあさんやあなたがたから、プレゼントがもらえないのはいいとして、じぶんでアンデインとシントラム(本の名)を買いたいわ。前からほしかったんですもの。」と、本の好きなジョウがそういうと、ベスはため息をつきながら、
「あたしはあたらしい譜本を買いたいわ。」
エミイも、きっぱりと、
「あたし、フェバアの上等の色鉛筆がほしいわ。ほんとにあたしいるんですもの。」と、いいました。ジョウは、
「おかあさんは、あたしたちのお金のこと、なんにもおっしゃらなかったわ。だから、めいめいほしいものを買ってたのしみましょうよ。これだけのお金をもうけるのに、みんなずいぶん苦労したんだもの。」と、紳士がやるように長靴のかかとをしらべながらいいました。
「そうよ、ほとんど一日中、あのやっかいな子供たちの勉強を見てやるのたまらないわ。」と、メグがまたも不平をいいますと、つづいてジョウが、
「そんなことあたしの半分の苦労じゃないわ。あたしは、神経痛で気むずかしいおばあさんに使われてさ。どんなにしてあげても気にいらなくて、いっそのこと窓からとびだそうか、それとも、おばあさんの横っ面をはりとばしてやろうかと思うくらいよ。」
「不平、いってもしょうがないけど、皿をあらったり、そこらを片づけたり、そんな家のなかの仕事は、ほんとにいやな仕事だわ。手がこわばって、ピアノひけないわ。」
ベスは大きな[#「大きな」は底本では「大さな」]ため息をついて、荒れたじぶんの手を見ました。すると、エミイも大声でいいました。
「あたしぐらい苦労しているものないわ。だって、あなたたちは、勉強ができないといっていじめたり、服がおかしいといって笑ったり、おとうさんが金持でないといったり、鼻のかっこうがわるいといってあざけったりする生意気な連中と、いっしょに学校にいかなくてもいいんですもの。」
こうして、みんなが不平をぶちまけたあげく、メグがいいました。
「あたしたちの小さいとき、おとうさんのなくされたお金が、今でもあったらいいと思わない? そうしたら、どんなに幸福でしょう。」
すると、ベスが聞きとがめていいました。
「こないだ、ねえさんは、キングさんのとこの子は、お金があっても、いつもけんかしたり怒ったりしてるから、あたしたちのほうがずっと幸福だっていったじゃないの?」
「ええ、いったわ。あたしたちは、はたらかなければならないけど、ジョウのいうように、たのしいあいぼうですもの。」
「ジョウねえさん、あいぼうだなんてぞんざいな言葉だわ。」と、エミイは、敷物の上にねそべっているジョウのほうを見ていいました。ジョウは、すぐに起きなおって、エプロンのかくしに、りょう手をつっこんで、口笛を吹きはじめました。
「ジョウ、およしなさい。まるで男の子みたい。」
「だから、あたしするの。」
「あたし、下品な、女らしくない子は大きらい。」
「あたし、気どり屋のおすまし、大きらい。」
すると、仲裁者のベスがおどけ顔で、
「おなじ小さな巣にいる小鳥、いつもなかよしあらそわぬ。」と、うたいだしたので、二人のとがった声も笑い声となりましたが、メグがねえさんぶってお説教をはじめました。[#「ました。」は底本では「しまた。」]
「二人ともいけないわ。それにジョウは、もう男の子みたいなおいたはやめて、しとやかになさいよ。せいも高いし髪もゆってるのですものもうわかい婦人だわ。」
「そんなら二十才まで、おさげにしとくわ。あたし、男の子のあそびごとや仕事や身なりが好きなのに、女に生れてつまらないわ。この頃は、おとうさんといっしょに、戦争がしたくてうずうずしてるのに、家にいてよぼよぼばあさんみたいに、編物をしてるだけなんだもの。」
「かわいそうなジョウねえさん、まあ名前でも男の子らしくして、あたしたちのにいさんになって、がまんしておくんだわねえ。」
ベスがなぐさめるようにいいました。メグは、またお説教をつづけました。
「[#「「」は底本では欠落]それから、エミイは、気むずかし屋で、かたくるしいわ。今はかわいいけど、気をつけないと大人になったら、がちょうみたいに気どり屋さんになるわ。上品ぶらないときは、しとやかなのも、いい言葉も好きだけど、あんたのませた言葉は、ジョウの下品な言葉とおなじように、よくないわ。」
「ジョウがおてんばで、エミイが気どり屋さんなら、ねえさん、あたしはなあに?」と、ベスはじぶんもお説教されたがって口をはさみました。
「あなたは、かわいい子、ただそれだけよ。」
メグは、やさしくそういいましたが、これには、だれも反対しませんでした。
ところで、みなさ
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