おかあさん、それで、荷物ってどこにありますの!」と、エミイが尋ねました。
「ベスのほかは、みんながじぶんの荷物が、なにか、いいましたよ。ベスは、きっとなにもないのでしょう。」
「いいえ、ありますが、あたしのはお皿とはたきと、いいピアノをもっている娘をうらやむしがることですわ。」
「それでは、みんなでしましょう。巡礼ごっこというのは、よい人になろうと努めることね。」
メグは、考えこむように、そういいました。
「あたしたちは、今夜は、絶望の沼[#「絶望の沼」に傍点]にいたのね、すると、おかあさんが来て、あの本のなかで、救助[#「救助」に傍点]がやったように、ひきあげて下すったんです。だけど、掟の巻物を、どうしましょう?」
ジョウが、そういうと、おかあさんが答えました。
「クリスマスの朝、枕の下をごらんなさい。見つかるでしょうよ。」
ばあやのハンナが、テーブルを片づけているあいだに、四人の少女たちは、あたらしい計画について話し合い、それからマーチおばさんの敷布をつくるために、四つの小さな仕事かごがもちだされ、せっせと針をはこぶ[#「はこぶ」は底本では「ぱこぶ」]のでしたが、今夜はこのおもしろくない仕事に、だれも不平をいいませんでした。
九時に仕事をやめて、いつものとおり、おわる前に歌を合唱しました。ベスはおんぼろピアノで、こころよい伴奏をしました。メグは笛のような声で、おかあさんと二人で、この合唱隊をリードしました。姉妹たちは、この歌を、
「きらりきらり、ちっちゃな、星さま」と、まわらぬ舌でうたったころから、今だにつづけて[#「つづけて」は底本では「つづけで」]います。おかあさんは生れつきうたがじょうずなので、これが行事の一つとなったわけでした。朝、まず聞えるのは、家のなかを、ひばりのようにうたうおかあさんの声で、晩に聞える最後の声も、おなじたのしいその声でした。姉妹たちはいくつになっても、そのなつかしい子守唄を、聞きあきるということはありませんでした。
第二 たのしいクリスマス
クリスマスの朝、まだほのぐらい明方に、ジョウが一ばんさきに目をさました。ジョウは、おかあさんとの約束を思いだして、枕の下へ手をさしこみ、小さい赤い表紙の本をひきだしました。それはこの世でもっともすぐれた生活をした人の美しい物語で、よい道案内だと思いました。ジョウは、「クリスマス、おめでとう。」といって、メグを起し、枕の下を見てごらんなさいといいました。ありました。やはり、あかい絵のある緑の表紙の本で、おかあさんの手でみじかい言葉が書かれていました。まもなく、ベスとエミイが目をさまし、枕の下に本を見つけました。一冊は鳩羽色、一冊は空色の表紙でした。みんなは起きなおり、本をながめて話し合いました[#「ました」は底本では「ましに」]が、そのうちに東の空がばら色に染ってきました。
メグがいいました。
「まい朝、目がさめたらすこしずつ読んで、その日一日、あたしを助けてもらいましょう。」
メグが読みはじめると、ジョウは片手をメグの身体にかけ、ほおをすりよせました。ほかの二人もしずかに頁をくりました。三十分ばかりして、メグはジョウといっしょに、おかあさんにプレゼントのお礼をいいに階下へかけおりていきました。
「[#「「」は底本では欠落]おくさまは、どこかの貧乏な人がおもらいにきたので、なにかいるものを見に、すぐお出かけになりました。おくさまみたいに、食物や着物や薪までおやりになる方はありませんよ。」と、ハンナが答えました。ハンナは、メグが生れてから、この家族といっしょに暮してきて、女中というよりは、友だちとしてあつかわれているのです。[#「。」は底本では「。」」]
「すぐにお帰りになると思うわ。だから、お菓子をやいて、すっかり用意しておいてね。」と、メグはかごにいれてソファの下にかくしておいたプレゼントを、いざというときに、とり出せるようにしてから、
「あら、エミイのコロン水の瓶は?」
「エミイが、リボンをかけるとかといって、もっていったわ。」と。ジョウがいいました。
「ねえ、あたしのハンケチいいでしょう。ハンナが洗ってアイロンをかけてくれたのよ。マークはあたしがつけたの。」とベスは、ぬいとりの文字をほこらしげにながめました。
「まあ、この子は、エム・マーチでなく、マザアなんてぬいとりして、おかしいね。」と、ジョウがいうと、ベスはこまったような顔をして、
「いけないの?、エム・マーチだと、姉さんもおなじだから。」
「いいのよ、それならまちがいっこないから。[#「から。」は底本では「か。ら」]きっとおかあさんの気にいるわ。」と、メグは、ジョウには顔をしかめ[#「しかめ」は底本では「しかあ」]、ベスには笑顔を見せていいました。そのとき、
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