周の航海をしているような空想にふけっていると、人声がして空想はやぶれました。見るとマーチ家の姉妹たちが出かけていくところでした。けれど、いつもとようすがちがって、めいめい大きなつばの帽子をかぶり、肩に茶色のふくろをかけて長いつえをつき、メグはクッション、ジョウは本、ベスはひしゃく、エミイは紙ばさみを、それぞれ持っていました。一行は、しずかに庭をぬけ、うら木戸を出て、家と川のあいだにある丘をのぼりはじめました。
「ひどいなあ。ぼくを誘わないでピクニックにいくなんて。かぎをもっていないから、ボートにのれまい。よし、持っていってやろう。そして、なにをするのか見て来よう。」
 ローリイは、どの帽子をかぶろうかとまよい、かぎをさんざんさがし、かぎがポケットにはいっているのに気がつくと、さっそく後を追いましたが、少女たちのすがたはなく、ボート小屋へいきましたが、だれも来ないので、上へのぼっていきました。すると、松の木立のかげから、風の音よりも、こおろぎの歌よりも、もっとほがらかな声が聞えて来ました。
「すてきだ!」と、ローリイは、目がさめたような思いでした。
 姉妹たちは、木かげにすわり、太陽の光と木の影が、その上にゆれていました。メグはぬいものをしていましたが、ピンクのドレスがばらのようにあざやかでした。ベスは、松ぼっくりをよりわけていました。エミイは、一むらのしだを写生していました。そして、ジョウは、大きな声で本を読みながら、あみものをしていました。この光景が、ローリイの心をとらえました。ローリイは、そばへいきたいが、誘われたのでもなし、家へ帰るべきだが、家はたまらなくさびしく、それで立ち去りかねていると、リスがかれのすがたにおどろいて、するどい声を出しました。その声に、ベスが顔をあげると、ローリイのさびしそうな顔があったので、安心させるように、にっこり笑って手まねきしました。
「ぼく、いっても、いいですか?」
 メグは、眉をつりあげて、いけないといようすをしましたが、ジョウはメグに顔をしかめて、
「だいじょうぶよ、いらっしゃい。お誘いしようと思ったけど、こんな女の遊びなんか、つまらないと思ったのよ。」
「あなたたちの遊びなら好きです。でもメグがいやなら、ぼく帰ります。」
「いやじゃありませんわ。そのかわり、ここでは怠けてはいけないという規則だから、あなたもなにかしなければいけませんよ。」
「どうもありがとう。なんでもします。だって家は、さばくみたいに退屈です。」
 ローリイは、うれしそうでした。
「それでは、あたしが、かかとをあんでいるあいだに、この本を読んでしまってね。」
 ジョウが本をわたすと、ローリイは、はいと、うやうやしく答えて「はたらきばち会」に入会させてくれた好意に感謝して、熱心に読みはじめました。その物語はあまり長くはなく、ローリイは読みおわると、労にむくいてもらう[#「もらう」は底本では「もろう」]ために、二三の質問を出しました。
「ちょっとうかがいますが、この有益な会は、新らしくできたんですか?」
 姉妹たちは顔を見合せました。秘密にしておくべきか、それともうち明けるべきか? ローリイにならいってもいいと、みんなは考えました。ジョウは、にっこり笑っていいました。
「あたしたち、巡礼あそび[#「あそび」は底本では「あそぴ」]を、冬から夏までつづけて来たの。そして、この休暇には、怠けないようにと思って、めいめい仕事をこしらえて精いっぱいやりました。休暇はもうじきおわりますが、仕事はみんなできて、よろこんでいますの。ところで、おかあさんは、あたしたちを、外へ出したがっていらっしゃるので、この丘へ仕事を持って来て、おもしろくやっているの。」
 ローリイは、うなずいていいました。
「ああ、それで、ふくろをしょい、杖をつき、古い帽子をかぶるんですね。」
「あたしたちは、この丘のことを、よろこびの山といってますの。ずっと、むこうまで見わたせるし、[#「、」は底本では欠落]あたしたちが、いつかは住んでみたいと思う国も見えるからです。」
 ジョウが、ゆびさしたので、ローリイは立ちあがってながめました。あおい川、ひろびろとした草地、そのむこうのみどりの山々、その峰にたなびく金と紫の雲、まことに、天の都を思わせるものがありました。
「なんてうつくしいんだろう!」と、ローリイは、美しさをす早く見つけました。
「あのうつくしい景色のところが、あたしたちのほんとの国で、みんなでそこへいけたら、うれしいと思うわ。」と、ベスがいいますと、メグは、やさしい声で、
「あれよか、もっとうつくしい国があるのよ。あたしたちが、りっぱな人になったら、そこへいけるのよ。」と、いいました。
「ベスなんか、いつかいけるでしょうが、あたしなんか、戦ったりはたらいたり
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