、ある一人の騎士が立身出世しようと思って旅に出ました……」
ブルック先生は、ゆたかな想像で話しました。この騎士は二十八年も旅をつづけ、ある王宮へいきますと、王さまはまだならしていない馬を、うまくしこんだ者に、ほうびを与えると申されました。そこで、騎士はその馬をしこむために、まい日、のりまわしましていると、お城に美しいおひめさまが、魔法のためにとじこめられ、自由になるお金をつくるために、糸をつむいでいることを知りました。騎士は、貧乏なので、お金はなし、しかたがないので、お城の扉をたたくと……と後の待たれるように話をきりました。
それをつづけたのは、ケイト、ネッド、メグ、ジョウ、フレッド、サリー、エミイ、ローリー、フランクというじゅんでしたが、話のすじは、じつに変化していき、おほりに落ちたり、墓場のようなろうかを歩いていったり、そこで見つけたかぎ煙草をかいだら首がおちたり、そうかと思うと、たちまち生きかえったり、箱の中でダンスしたら、それが軍艦にかわったり、聞いている者も、ときには笑い出し、ときには眉をしかめ、はてしもなく変化していく話をおもしろく思いました。
話がすむと、サリーがいいました。
「ずいぶん、へんな話でしたね。だけど、練習すれば、もっといいのができそうね。それじゃ、今後はツルースっていうあそびごぞんじ?」
「どんなの?」
「そうね、みんなで手をかさねておいて、かずをきめて、じゅんじゅんに手をのけていって、そのかずにあたった人が、ほかの人の質問になんでも正直に答えるの。それやおもしろいわ。」
「やってみましょう。」と、新しいことの好きなジョウがいいました。そして、みんなで手をかさね、じゅんじゅんにのいていくと、ローリイがあたりました。
「だれ、あなたの尊敬する英雄は?」と、ジョウが尋ねました。
「おじいさんと、ナポレオン。」
「一ばん美しいと思う女の人は?」と、フレッド。
「もちろん、ジョウ。」
ローリイの、あたり前さというような顔つきに、みんなどっと笑ったので、ジョウは、
「ずいぶん、ばかげた質問ね。」と、けいべつするように肩をすぼめました。
「さ、もう一度やろう。おもしろいね。」と、フレッドがいいました。今度はジョウのばんでした。
「あなたの一ばん[#「一ばん」は底本では「一がん」]大きい欠点は?」と、フレッドが尋ねました。
「かんしゃく。」
「一ばんほしいものは?」と、ローリイがいいましたが、ほしいものをいえば、ローリイがくれそうなので、わざと、
「靴のひも」と、答えました。
「そんなのだめ、ほんとのこといわなくちゃ。」と、ローリイ。
「天才、あなたは、あたしに天才をくれたいと思わない?」と、ジョウはいって笑いました。
「男の美点のなかで、なにが一ばんだいじ?」
「勇気と正直」
すると、フレッドが、
「今度はぼくのばんだ。」と、いいました。
ローリイが、あれをいっておやりと、ささやいたので、ジョウはすぐにきり出しました。
「クロッケーでインチキやらなかった?」
「うん、ちょっと。」
「よろしい、きみのさっきの尻とり話、海のライオンという本からとらなかった?」と、ローリイ。
「いくらかね。」
「イギリス国民は、あらゆる点で完全と思いますか?」と、サリー。
「そう思わなかったら、イギリス人の自分は、はずかしいですよ。」
「それでこそほんとのイギリス人だ。さあ、今度はサリーのばんだ。」
「あなたは、じぶんをおてんば娘だと思いませんか?」と、ローリイ。
「ひどいわ。そんな女じゃないわ。」
「なにが一ばんきらい?」と、フレッド。
「くもと、ライス・プディング。」
「一ばん好きなのは?」と、ジョウ。
「ダンスとフランスの手ぶくろ。」
そのとき、ジョウが、頭をふって、
「つまらない遊びね。それより作家トランプを、おもしろくやらない?」
ネッドとフランクと小さい女の子がくわわって遊んでいるあいだ、[#「、」は底本では「。」]年上の三人はそこからはなれて腰をおろして話しました。ケイトは、ふたたび写生帳をとり出してかき、メグはそれをながめブルック先生は草の上にねころんでいました。メグは、ケイトのかくのを見て、おどろきの声で、
「なんておじょうずなんでしょう! あたしもあんなにかいてみたいわ。」と、いいました。
「どうして、おけいこなさらないの? あなたは絵の天分がおありですわ。」
それから、家庭教師のことになり、ケイトは家庭教師について習ったから、あなたも家庭教師に習うといいといいました。メグは家庭教師につくどころか、じぶんは家庭教師として教えにいっているといいますと、ケイトは、
「まあ、そうなんですの。」と、いいましたが、そのいいかたは、おやおや、いやなことだと、いうような調子でした。ブルック先生は、とりなすよう
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