ぜひいって、あなたのようすを見て来てほしいというので来たんです。」
「ジョウに、なんておっしゃるつもり?」
「どこの人だかわからなかったといいます。だって、まるで大人みたいで、あなたらしくないんですもの。」
「みんなでこんななりにさせたの、あたしもちょっとしてみたかったけど。ジョウびっくりするでしょうね? あなたもこんなの、おいや?」
「ぼく、いやです。わざとらしく、かざりたてたの、いやです。」
年下の少年からいわれた言葉としては、あまりにするどく、メグはふきげんになって、
「あなたみたいな、失礼な人、知らないわ。」と、いって、そこを去り、窓ぎわへいってたたずみ[#「たたずみ」は底本では「たにずみ」]、きゅうくつなドレスのために、ほてったほおを夜気にひやしました。大好きなワルツの曲がはじまっても、そのままでいると、ローリイが来て、ていねいに手をさしのべました。
「失礼なこといって、お許し下さい。いっしょに踊って下さい。」
「お気持をわるくするとこまります。」
「いいえ、ちっとも、ぼくダンスしたいのです。そのドレスは好きじゃないけど、あなたはほんとうに、すてきです。」
メグは、にっこり笑って気持をやわらげ、二人は音楽に合せておどりはじめました。
「ローリイ、あたしのお願い聞いてね、家へ帰ってもあたしのドレスのこといわないでね、家の人々は、じょうだんがわからないし、おかあさんには心配させるから。」
「どうしてそんなものを着たんです?」
ローリイの目がなじっていました。
「どんなに馬鹿だったか、自分でお母さんにいうから、あなたいわないでよ。」
「いわないと約束します。でもきかれたらどういいましょう!」
「あたしがきれいで、たのしそうだったとだけ、いってちょうだい。」
「きれいだけど、さあ、たのしそうかしら? たのしそうに見えない。」
「ええ、たのしくないの。おもしろいことしてみたかったけど、やっぱり性にあわないわ。あきてしまうわ。」
このとき、マフォット家の若主人のネッドが来たので、ローリイは顔をしかめました。
「あの人、あたしに三回もダンスを申しこんでいるの。だから来たんでしょう。」
メグがいかにもいやそうにいうので、ローリイは、これはおもしろいと思いました。
ローリイは、それっきり夕飯のときまで、メグと話しませんでした。食事のとき、ネッドとその友達のフィッシャアを相手に、メグがシャンペン酒を飲むのを見たローリイは、だまっていられませんでした。
「そんなもの飲むと、明日、頭痛がしますよ。ぼくは飲みません。おかあさんだって[#「だって」は底本では「たって」]、お気にいらないでしょう。」
ローリイは、ネッドとフィッシャアに聞かれないように、メグによりそって、そうささやきました。
「今夜は、あたし気ちがいみたいなお人形なの。明日からはいい子になるわ。」
「それじゃ、明日もここにいたいんですね。」
ローリイに、ついとはなれて立ち去りました。
メグは、踊ったり、ふざけたり、しゃべったり、ローリイがあきれるほど、はしゃぎました。帰りがけに、ローリイがあいさつに来ると、メグは、もう頭痛になやまされていましたが、
「いいこと! 頼んだこと忘れないでね。」と、むりに笑顔をつくっていいました。
「死をもっての沈黙」と、ローリイは、フランス語で、芝居がかりで答えて立ち去りました。
メグは、もう疲れきっていました。わびしい気分で床にはいりましたが、あくる日も一日気分がわるく、土曜日になって、二週間の遊びと、ぜいたくざんまい[#「ざんまい」は底本では「さんまい」]にあきあきして家へ帰って来ました。
日曜日の晩、メグはおかあさんとくつろいだとき、あちこち見まわしながら、
「年中、お客さわぎなどいやだわ。しずかに暮すのたのしいわ。りっぱでなくても、じぶん[#「じぶん」は底本では「じぶ」]の家が一ばんいいわ。」と、のびのびした表情でいいました。
「そう聞いてかあさんはうれしい。あなたがりっぱなところへいったので、家がつまらなく[#「つまらなく」は底本では「つまちなく」]、みじめに見えやしないかと、心配していたのよ。」と、おかあさんの目の、気づかわしそうな影が消えました。
メグは、おもしろそうに、いろいろの冒険を話しました。けれど、心の中になにかおもくるしいものがあるらしく、九時がうってジョウがねようといい出したとき、メグは[#「メグは」は底本では「メグに」]思いきったというふうに
「おかあさん、あたし白状することがありますの。」
「そうだと思っていました。どんなこと!」
「あたし、むこうへいきましょうか?」と、ジョウが気をきかしていいました。
「いいえ、いて。なんでもあなたには、うち明けてるじゃないの。いもうとたちの前では、はずかしいけど
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