あさんは、おとうさんのことを話しているうちに、お留守ということ[#「こと」は底本では「ごと」]がしみじみ[#「しみじみ」は底本では「みじみ」]さびしくなり、おとうさんのおかげということを思ったりしたので。」
「だって、おかあさんは、おとうさんに従軍なさるように、おすすめになったし、出発のときもお泣きにならなかったし、留守になってからも一度もこぼしたりなさらないし、だれの助けもあてにしていらっしゃらないし。」と、ジョウは、いぶかしそうにいいました。
「あたしは、愛する御国のために、あたしの一ばん大切なものをささげたのです。どうしてぐちがいえましょう。あたしが人の助けがいらないように見えるのは、おとうさんよりも、もっといいかたがおかあさんが慰め励まして下さるからなの、それは、天国のおとうさんです。天国のおとうさんに近づけば、人の知慧や力に頼る必要はなく、平和と幸福が生れます。さ、あなたもこのおとうさんのところへいきなさい。すべての心配や悲しみや罪をもって。ちょうど、あなたがおかあさんのところへ心から信頼して来るように、」
 ジョウの答えは、ただおかあさんに、しっかりすがりつくことでした。そして、だまって、心からある祈りをささげ、いかなる父や母よりも、いっそう強いやさしい愛で、すべての世の子供をむかえて下さる「おとうさん」に、近づいていくのでした。
 エミイは、眠ったまま、ねがえりをうって、ため息をつきました。ジョウは、今すぐに、じぶんの過失をつぐないたいと思うためか、今までにないまじめな表情をしました。
「あたし、かんしゃくをつぎの日までもち越して、エミイを許さなかった。もしローリさんがいなかったら、とんだことになったんだわ。ああ、どうしてあたしは、こんなにいけないんでしょう?」
 ジョウは、エミイの上によりかかり、枕の上のみだれ髪をなでながら、そういいましたが、それが聞えたもののように、エミイはばっちり目を開け、ほほえみをうかべて手をさし出しました。二人はなんともいいませんでしたが、毛布にへだてられながらも、しっかりと[#「しっかりと」は底本では「しっりと」]抱き合い、心こめたキスに、すべてを許し忘れてしまいました。

          第九 虚栄の市

 四月のある日、メグはじぶんの部屋で、いもうとたちにかこまれながら、トランクに荷物をつめこんでいました。おかあさ
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