つかんでゐます。ふしくれだつたそのからだは、ちようど、うすつぺらな石炭袋へ石炭をぎゆう/\つめこんだやうなかつこうです。茶のサージ服の下には、ごつ/\した骨ぐみが見えてゐます。たゞ服のまへの方だけが、くびのところから足のあたりまで、すべつこく、まつすぐに見え、まつ平《たひら》になつてゐます。
ミスは、やせた手をつき出しました。トゥロットは、うでをのばしてその手につかまりました。ミスはトゥロットの手の平をぎゆうとにぎつて、づしん/\と足をふみながら、さきに立つて歩き出しました。トゥロットは、せい一ぱいに大またをひらいてついていきます。それは、まるで足長蜘蛛《あしながぐも》が小さなワラヂ虫をおともにつれて出かけるやうなかたちでした。
ミスは、れいのやうに、せんさくをはじめました。
「トゥロットさん。きのふはどんなわるいことをしました? 一とうわるかつたとおもふことを言つてごらんなさい。」
トゥロットにはお話がこんなふうにはじまるのは、かなひませんでした。かういはれると、うるさい、いやァなことをすつかりおもひ出さなければなりません。しかし、いやでもおもひ出さなくてはすまされません。トゥロットはきのふは、いろ/\わるいことをしました。
さあ、一とうわるかつたのは何でしたらう。お午《ひる》ごはんのときにお皿《さら》をひつくりかへしました。それから野菜をこぼしました。クリームを三どもおかはりをしました。それから、ばあやが、どんな顔をして飲むかとおもつて、コーヒーの中へインキをちよつぴりおとしておきました。それからうつかり、小猫《こねこ》のプスをお客間へしめこんでしまひました。
ばあやがどんなお顔をし、プスがどんなにこまつたかは、トゥロットはお母ちやまには話しませんでした。しかしお母ちやまは、みんな、ちやんとかんづいていらつしやいました。プスをしめこんだのは、むろんプスのしくじりからも来てゐますが、トゥロットにも多少罪がないとは言へません。
これなぞは、みんな、しかられてもいゝことです。だけど、トゥロットはまだもつとわるいことをしてゐます。さう/\、あれが一とういけないことでした。きのふ、お母ちやまは、トゥロットの虫歯をうめに、歯のお医者のところへおつれになりました。
ところが、トゥロットはごうもん部屋のやうな、こはい手術室から、いやなにほひがぷんと鼻に来ると、そし
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