やるでせう。そんな、らんぼうなことがあるでせうか。
「では、きみのお父さまは、きみにまいにちパンを下さるやうに神さまにおいのりをしないの?」
男の子は何のことかわからないやうな顔をしてゐるので、トゥロットは、もう一ぺん、聞きかへしました。
「しねえ。」
トゥロットは、ほつとため息をしました。だからわかつた。おいのりをしないんだもの。それぢやだめだよ。
「ね、神さまのこと、一ぺんも話して下さらないの、お父さまは。」
「うん。神さまなんて、あるもんかいッて、おこるとさういふよ。」
何の意味か、トゥロットにはわかりませんが、何だか、それは、いゝおいのりではなささうにおもはれます。
「ぢや、きみは、何と言つて、おいのりをするの?」
男の子は、うす気味のわるい笑ひかたをするだけで返事をしません。
「ねえ。何ておいのりを上げるの?」
男の子は、やつばり、ばかにするやうに笑ひながら、
「神さまなんてものァ、うそつぱちだよ。」
と言ひました。トゥロットは、あつけにとられて、言葉も出ませんでした。神さまのことを、うそつぱちだなんて。ぼくがまいばんお母さまにをそはるとほりを言つて、おいのりをするあの神さまのことを。――遠くの海の中を航海していらつしやるお父さまに、おかはりがないやうにと、ぼくはまいばんおいのりをするんぢやないか。その神さまが、うそッぱち? トゥロットは、くわッと血が顔中へ上つて来ると一しよに、シャベルをふり上げて、ごつんと男の子の頭をなぐりつけました。男の子は、びつくりして、ひぢで顔をかばひながら、横目でにらみつけました。でも、それきりで、べつに食つてかゝつて来ようともしません。
「きみはわるい子だよ。不信者だよ。」
トゥロットは、もう、こんな子どもと口を利いてはいけないとおもつて、おうちへかへらうとして三足もふみ出しました。
しかし、あの子が何にも食べないといふのは、かはいさうです。だから、おいのりのことを、ちやんと、をしへておいてやらなければならないと、おもひなほして、またひきかへしました。
「きみ、神さまにおいのりをすれば、何でもして下さるんだよ。こんばん、おねんねをするまへにおいのりをしてごらんよ。あすの朝、大きな三日月パンを下さいましつて。さうすれば、きつと下さるんだよ。ね。ね。」
「三日月パンがどこへ出る?」
「それは、どこにでもさ。テイブルの上
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング