うだい》二人の妖女は、若ものゝまへゝ来て膝《ひざ》をついて、
「どうぞおゆるしなすつて下さいまし。あすこのおくらには、金や銀やダイヤモンドや、ルービーや、珊瑚《さんご》や真珠が一ぱいはいつてをりますから、おいりになるだけお取り下さいまし。そしてもうどうぞ、このまゝおかへりになつて下さいまし。」
 かう言つて、若ものをおくらへつれていきました。若ものは、
「私《わたし》はそんなものがほしくて来たのではない。それよりも、あすこの硝子《がらす》のはこにはいつてゐるびん[#「びん」に傍点]を下さい。」と言ひました。
 妖女は仕方なしにその十二のびん[#「びん」に傍点]を出してわたしました。若ものはそれをうけとると、すぐに、片はしからびん[#「びん」に傍点]の口を開けました。するとその中から、たくさんの白い形をしたものが、うれしさうに大声をあげてさけびながら、どん/\飛び出して、御殿の外へかけ出しました。それは妖女たちがさらつて行つた人間のたましひ[#「たましひ」に傍点]でした。
 二人の妖女は若ものゝきげんをとつて、どうぞこちらへ入らしつて、ごちそうをめし上つて下さいと言ひました。しかし若ものは、
「それよりもあなた方は、礼拝堂の鐘をこのくらにかくしてゐるでせう? 早くそれをこゝへお出しなさい。」と言ひました。
 すると二人の妖女も、小さな妖女たちも、たちまちぶる/\ふるへながら、大声を上げて泣き出しました。妖女の王さまも、小さくなつて、がた/\ふるへ出しました。
 でも、仕方がないので、二人の妖女は、とう/\その鐘を出してわたしました。若ものは、鐘のさびをきれいにふきおとして、いそいで御殿を出ていきました。そして、御殿から少しはなれるとすぐに、ありたけの力を出して、鐘をじやアんと鳴らしました。
 すると、今までりつぱにたつてゐた水晶の御殿は、またゝく間に、音もたてずに、ほろ/\とくだけて、珊瑚の柱も、真珠の天井も、みんな粉になつて、水の底の砂の上にちつてしまひました。
 若ものはつゞけてもう一つじやアんと鳴らしました。すると今度は、湖水中のお化や、すべての小さな妖女が、一どに湖水の底へきえてしまひました。
 若ものが三度目にじやアんと鳴らしますと、二ひきのほそい銀色の魚が、くづれおちた御殿のまはりを、ぐる/\およぎまはりはじめました。それから一ぴきの大きなかうもり[#「か
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