うに、お祖父《ぢい》さまの水晶の御殿があるのです。水晶だから壁もすつかりすきとほつて、中に何千となくならんでゐる部屋/″\が一と目に見えます。その部屋は、どれもみんな、大きなダイヤモンドやエメラルドでかざつてあつて、柱にはルービーがいくつもはまつてゐます、部屋の戸口戸口には、羽根の生えた竜《りゆう》が、二ひきづゝ番をしてゐます。
その竜がゐてもけつしておそれるにはおよびません、まるめろ[#「まるめろ」に傍点]の枝でなぐつてやれば、みんな石になつてしまひます。その部屋/″\をとほりぬけて、どこまでも、まつすぐに進んでいくと、一ばんしまひに、エメラルドの戸のはまつた、りつぱなお部屋へ来ます。そこがお祖父さんの寝室です。
そのお部屋は、天井が真珠で張つてあつて、床はすつかり貝のから[#「から」に傍点]で出来てゐます。その中へはいると、いくつもならんでゐる大きな花瓶《くわびん》に、珊瑚《さんご》のやうな花と、黄金のやうな果物のなつてゐる木とがさしてあります。四方の壁には大きな水草《みづぐさ》の中からふき出てゐる、綿のやうな蜘蛛《くも》の網が、一ぱいたれてゐます。その壁かけの上には、小さなうす赤い色をした蛙《かへる》が、いくひきもとまつてゐて、青い蜘蛛たちと一しよに、きれいな声で歌をうたつてゐます。
そのお部屋に、長い/\青いひげの生えた王さまが、緑色のびろうどの着物を着て、帯のかはりに、銀色の蛇《へび》をまきつけて、椅子《いす》にかけてゐます。
その両側には、私の二人のお姉さまが坐《すわ》つて、魚のひれ[#「ひれ」に傍点]でお父さまをあふいでゐます。
おまへが行くと、お父さまやお姉さまは、みんなでおまへのごきげんを取つて、宝物のおくらへつれて行つて、金や銀やダイヤモンドを上げようと言ふにきまつてゐます。しかし、そんなものには一さい手をふれてはいけません。それよりも、そのおくらの中には、小さなびん[#「びん」に傍点]が十二はいつてゐる、硝子《がらす》のはこが一つあるから、それをおもらひなさい。
それから、そのつぎには同じおくらのすみの方にかくしてある、さびついた鐘をおもらひなさい。それは、あすこの、あの礼拝堂の鐘なのです。
もし、その鐘だけはやられないと言つたら、そんならまるめろ[#「まるめろ」に傍点]の枝でその鐘をたゝくよと言つておどかしてごらんなさい。さうす
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