お嫁になりましょう。ですけれど、これから先、私が何の悪いこともしないのにむやみにおぶちになったりすると、三どめには、私はすぐに湖水へかえってしまいますがようございますか。」と、ねんをおしました。ギンは、
「そんな乱暴なことはけっしてしません。あなたをぶつくらいなら、それより先に私の手を切り取ってしまいます。」
こう言ってかたくちかいをしました。そうすると、どうしたわけか湖水の女はふいにだまって水の中へ下りて、牛と一しょに、ひょいと姿をかくしてしまいました。ギンはびっくりして、いきなり後《あと》を追って飛びこもうとしました。すると、後《うしろ》から、
「これこれおまちなさい。そんなにさわがなくてもいい。こっちへお出《い》でなさい。」と、だれだか大声でよびとめるものがありました。ふりむいて見ますと、少しはなれたところに、まっ白な髪をした品《ひん》のいいおじいさんが、二人の若い女の人をつれて立っています。ギンはこわごわそばへいきました。よくみると、その女の一人はたった今水の中へ消えたばかりの湖水の女でした。それからもう一人の女を見ますと、ふしぎなことには、それもさっきじぶんのお嫁になると言った、同じ湖水の女でした。ギンはじぶんの目がどうかなっているのではないかと思いました。おじいさんは、
「これは二人とも私《わたし》の娘だが、おまえさんはこの二人のどちらが好きなのか、それをまちがいなくおしえておくれ。そうすれば、のぞみどおりお嫁に上げましょう。」と、やさしく言ってくれました。
ギンは一しょうけんめいに二人を見くらべましたが、二人とも顔も背《せい》も着物もかざりも、そっくり同《おんな》じで、ちっとも見わけがつきません。もしまちがえたらそれきりだと思うと、ギンは気が気ではありませんでした。けれども、いつまで見くらべていても判断がつかないので、どうしたらいいかとこまっていますと、一人の方が、片足をかすかに前へ出しました。目には見えないくらい、ほんの少し動かしただけでしたが、ギンにはその片足の靴のひもが、さっきちらと見たように、ちがった結びかたがしてあるのが目につきました。ギンはやっとそれで見わけがついたので、
「わかりました。この人です。」と、いさんでまえへ出て、その女をゆびさしました。おじいさんは、
「なるほどよくあたった。それではこの娘をあげるからお家へつれておかえりなさい。私は、娘が一と息で数えるだけの、羊と牛と山羊《やぎ》と馬と豚を、お祝いにやりましょう。しかしお前さんが、これからさきこの娘を、何のつみもないのに、三べんおぶちだと、すぐにこちらへとりもどしてしまいますよ。」と言いました。ギンはおおよろこびで、
「いえいえけっしてそんなことはいたしません。この人をぶつくらいなら、私の手の方を先に切ってしまいます。」と、あらためておじいさんにもちかいました。おじいさんはそれを聞くと安心して娘に向って、おまえのほしいと思う羊の数《かず》を、一と息で言ってごらんと言いました。娘はすぐに、
「一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。」と、一度の息がつづくかぎり五つずつ数をよみました。すると、それだけの羊が、すぐに水の下から出て来ました。
おじいさんは、今度は牛の数を一と息でお言いなさいと言いました。娘がまた同じように、
「一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。」と息がつづくまで数えますと、その数だけの牛が、また一どに湖水の中から出て来ました。同じようにして、そのつぎには山羊、山羊のつぎには馬、それから豚というふうに、すっかりそろいました。そして牛は牛、山羊は山羊でじゅんじゅんにならびました。それと一しょに、おじいさんともう一人の娘は、いつの間《ま》にかふいに姿をかくしてしまいました。
湖水の女とギンとは、この上もなく仲のよい夫婦になって、たのしくくらしました。
二
二人の間《あいだ》にはかわいらしい男の子が三人生れました。そのうちに一ばん上の子どもが七つになりました。
すると、或《ある》とき、知合《しりあい》の家に御婚礼があって、ギンも夫婦でよばれていきました。二人はじぶんたちの馬が草を食べている野原をとおっていきました。そうすると女は、途中で、あんまり遠いから、私《あたし》はよして家《うち》へかえりたいと言いました。ギンは、
「だって今日《きょう》ばかりは、どうしても二人でいかなければいけない。歩くのがいやなら、お前だけは馬でいけば
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