わけにはまいりません。」
 こう言ってことわりました。王さまは、
「それはぞうさもないことだ。すぐに鍵をこしらえさせよう。」と言って、急いで上手な鍛冶屋《かじや》をおよびになりました。けれどもその鍛冶屋には、第一、お城の門の錠前にはまる鍵がどうしても作れませんでした。しまいには国中の鍛冶屋という鍛冶屋がみんな出て来ましたが、だれ一人その鍵をこしらえるものがありませんでした。
 王さまは仕方がないので、また、ウイリイをお呼びになって、
「あの門と部屋々々の戸を開けてくれ。すぐに開けないとお前の命はないぞ。」とお言いになりました。
 ウイリイは自分がちゃんとその鍵を持っているのですから、今度はちっとも困りませんでした。

       五

 王女は、門や部屋がすっかり開いたので、もう御婚礼をするかと思いますと、また無理なことを言い出しました。
「ではついででございますから命の水を一とびんと死の水を一とびんほしゅうございます。それを取りよせて下さりましたらもう御婚礼をいたします。これまでのことをみんな聞いていただきましたのですから、どうかこれもかなえていただきとうございます。」と言いました。
 王さまはまたウイリイをお呼びになって、命の水と死の水を持って来い、それが出来なければすぐに命を取ってしまうとお言いになりました。ウイリイは廐《うまや》へ行って、
「私は今度こそはもういよいよ殺されるのだ。だれにくび[#「くび」に傍点]をしめられるのか知らないが、もうそんなことはどうでもかまわない。」
 こう言って自分の馬にお別れをしました。馬は、
「それはあの三本目の羽根を拾ったたたり[#「たたり」に傍点]です。私があれほど止めてもお聞きにならないから、こんなことになったのです。しかしもう一度どうにかして上げますから、王さまに銀のびん[#「びん」に傍点]を二つもらってお出《い》でなさい。」と言いました。
 ウイリイは銀のびん[#「びん」に傍点]をもらって来て、馬のさしずどおりに、一つへ命の水という字を彫らせ、もう一つへは、死の水という字を彫らせました。
「それでは早く鞍《くら》をおおきなさい。」と馬が言いました。ウイリイは間もなく馬に乗って大急ぎで出ていきました。そのとき窓のところに立って見ていた王女は、
「そのたすけ手がついていれば、きっと見附かります。」とウイリイに言いました
前へ 次へ
全15ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング