くりかへりさうになりました。一本足の兵たいはびつくりして、ぶる/\ふるへてゐました。しかし兵たいですから、がまんして、こはいなぞといふことは顔色にも出さないで、ちやんと鉄砲をかついで、一つところをにらみつけてゐました。
そのうちに、ボウトは、急に地面の下のトンネルの中へかけこみました。そこはまるで箱の中にはいつたやうにまつ暗でした。ボウトはその暗がりの中を、浪にもまれてどん/\走つていきました。
「おや/\、一たいどこへもつていかれるんだらう」と、一本足の兵たいはびく/\しながら乗つてゐました。
「これもみんなあの黒鬼がさせたことだ。ほんとにあいつはひどい奴《やつ》だ。あの踊《をどり》の女の人と二人で乗つてゐるのなら、この暗がりがこの二倍暗くても平気なんだけれど。おつと、あぶない。おゝ、もう少しで引つくりかへるところだつた。」
一本足の兵たいは青くなつてちゞこまつてゐました。すると、ふいにその地の底のどぶ[#「どぶ」に傍点]の中に住んでゐるどぶ鼠《ねずみ》が、
「おい、兵たいまて。」と、どなりました。
「こら/\通行券を見せろ。おいこら、通行券を見せろつてば。」
しかし一本足の兵たいは、だまつて鉄砲の台をにぎつてゐました。ボウトは、かまはずどん/\走つていきます。鼠《ねずみ》は怒つて追つかけて来ました。
「おゝい、あいつをつかまへてくれ。つかまへてくれ。通行税をはらはないでにげたんだ。通行券なしでとほつたんだ。」
鼠はかう言つて、ボウトのそばを流れてゐる、木の片《きれ》やわらくづにかせいをたのみました。
さうかうしてる間に、流れはいよ/\急になつて来ました。ボウトは目がまはるほど早く走りました。と、やがて向うに外の明るみが見え出しました。一本足の兵たいは、
「おや、うまいぞ。もうあかるいところへ出たぞ。」と思ふとたんに、ごう/\/\と、耳がつぶれるほどの大きなひゞきがつたはつて来ました。それは、どぶがもうぢきおしまひになつて、下の大きなほりわりの中へ、泥水《どろみづ》がどうと落ちこむ音でした。
そこへ来ると、水は大きな滝《たき》になつて、まつさかさまに落ちこんでゐました。兵たいのボウトは、あつといふ間にその滝のま上へ来て、泥水のしぶきと一しよに、どぶんとほりわりへさかおとしに落ちこみました。兵たいは、びしやりと水をかぶつたと思ひますと、うづ[#「うづ」に
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