そこへくぎが出つぱつて来たと見えて、足の先がいたくてたまらなくなりました。それで或金細工師の店のまへにたちどまつて、その片方の靴をぬいで、中をのぞいて見ました。
そのときその店先には、王さまが、おしのびで、一人のおともをつれて、金の指輪をなほさせに来てゐました。金細工師は、その指輪を左手の人さし指の先にかけて、なほすところを見てゐました。するとどうしたはずみか、指をぴよいと動かしたひようしに、指輪がぽんとどこかへとんでしまひました。
指輪は、ちようどイドリスがのぞきこんでゐる靴の中へ、ひよこりとはいつたのですが、金細工師は、それとは気がつかないので、びつくりして、店中をさがしまはりました。
イドリスは、ほゝう、これはいゝものがとんで来た。ほう、すばらしい宝石がはまつてゐると、にこ/\して、あたりを見まはしました。さいはひ、だれもかんづかないので、そのまゝ、指輪のはいつた靴をはいて、大急ぎで、じぶんの家《うち》へ引きかへしました。
王さまには、それが何ものにもかへられない、だいじな指輪だつたので、たちまちおほさわぎになりました。王さまはおこつてどなりつけます。みんなは血眼になつて、通中をさがしまはりました。しかし、むろん、その指輪が出て来るはずもありません。
王さまは、それは/\くやしがつて、町中のありとあらゆる占ひ師や、魔術つかひをめしよせて指輪のありどころを占はせたり、魔術で見とほしをつけさせようとあせりましたが、だれにも、さつぱりけんとうがつきませんでした。
すると一人の家来が、墓場の賢者のうはさを聞いて来て、これ/\かういふものがゐて、どんな秘密でも、すぐに言ひあてるさうですから、ためしに、その賢者に相談してごらんになつてはいかがでせうと言ひました。そこで王さまは、すぐにイドリスをよびにやりました。イドリスは、何だらうと思ひながら、こは/″\出向いて見ますと、これ/\で、金の指輪が金細工師の店先でなくなつた。一つそのゆくへをあてゝ見ろといふ命令です。イドリスは、はッと思ひました。で、その指輪の形だの、ほり[#「ほり」に傍点]のもよう[#「もよう」に傍点]などをくはしく聞いて見ますと、それは、まさしく、じぶんの靴の中へとびこんだ、あの指輪です。そこで、
「その指輪なら、夕方までおまち下さいませば、かならず私がさがし出してまゐります。」と、うけ合ひまし
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