っさり入れて、小屋がわりにおいてやりました。そのあくる日は、どうしたものか、じょうぶな方の犬も出て来ません。肉屋はへんだとおもっていって見ますと、じょうぶな方の犬はたる[#「たる」に傍点]のまえにすわって、中にいる病犬の見はりをしていました。
「おい、どうしたい。」と、そのくびをなでたのち、
「これこれ、おれだよ。おきないか、おい。」と言って、中の犬をよびました。しかし犬は、目もあけないで、ぐんなりしているので、肉屋はひきおこしてやろうと思って、手をのばして、からだにさわりましたが、いきなり、あッと言って手を引っこめました。犬は、もう死んでつめたくなっていたのです。
肉屋は、そこいらの片すみへ穴をほって、おお/\、かわいそうに/\と言い言い、死がいをうめてやり、その上へ土をもり上げました。もうひとつの犬は、かなしそうに、くんくんなきなきうろうろしていました。
その翌《あく》る日、肉屋は、のこった犬をその空地《あきち》へかえさないようにして、すべてをわすれさせてやろうと思って、じぶんの家のうら手へきれいなわら[#「わら」に傍点]をしいたはこ[#「はこ」に傍点]をすえてやりました。しかし犬はどうしてもそこへ寝ないで、かえっていきます。ときには、もらった肉を、そのままくわえていくこともありました。へんだと思って、そのつぎの日についていって見ますと、きのうもってかえった肉は、そのままたる[#「たる」に傍点]のまえにころがっていました。犬は、ときどきあの犬がなくなってしまったのをわすれて、ものを食べさせようと思ってはもってかえるものと見えます。店先へ来ている間《あいだ》も死んだ犬と同じ毛色の犬がとおりかかると、いそいでとび出して、じろじろ見ていますが、間ちがったとわかると、さもがっかりしたように、しおしおとひきかえして来ます。
犬はその後《のち》、だんだんにやせて元気がなくなって来ました。出て来ても、これまでのように、店の番もせず、何かなくしたものをさがすように、そこいらをまわって歩いたり、からになったような目つきをして、ものうそうに一つところを見つめていたりします。毛色も目立って灰色になり、皮ふ[#「ふ」に傍点]がたるんで、だんだんにあばら骨まで見えて来ました。肉屋は、そのすべてが、みんなあの犬をうしなったかなしみから来ているのだと思うと、かわいそうでたまりませんでし
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