へにどこかでわしを見かけたことでもあるのかい。」と聞きました。
「はッは、あの事件をしらないでどうするんだ。世間中のうはさに上《のぼ》つた犯罪ぢやないか。だが、もう古いむかしのことだから、くはしい話はわすれたよ。」
「しかし、おまいさんは、あの事件のほんとうの犯人を知つてるんだらう?」とイワンはつッこみました。するとマカールは笑つて、
「それやおまい、ほんとうの犯人も何も、げんざい、血のついたナイフが荷物の中から出て来た以上は、その人間が殺したんだらうぢやないか。かりに、ほかのやつが、人の荷物の中へ入れこんだものとしても、その本人がつかまらなけやァだめぢやないか。だが考へて見てもわかることだ、人が頭の下においてゐる荷物の中へ、どうしてほかのやつがナイフなんぞをおしこめられるかい。そんなことをすれば、眠つてる当人はすぐに目をさますぢやないか。」
イワンはその言ひぐさを聞いて、ふゝん、あの商人を殺したのはこいつだなとかんづきました。
イワンはだまつて立ち上つて、あつちへいつてしまひました。
四
その晩イワンは何ともたとへやうもないほど悲しい、いやな気もちにおさへられて、
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