ほどに足早について行く。此は、晋唐の新しい文學の影響を受け過ぎるほど、享け入れた文人かたぎの彼には、數年來珍しくもなくなつた癖である。かうして、何處まで行くのだらう。唯、朱雀の竝み木の柳の花がほゝけて、霞のやうに飛んで居る。向うには、低い山と、細長い野が、のどかに陽炎《カゲロ》ふばかりである。
資人の一人が、とつと[#「とつと」に傍点]ゝ追ひついて來たと思ふと、主人の鞍に顏をおしつける樣にして、新しい耳を聞かした。今行きすがうた知り人の口から、聞いたばかりの噂である。
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それで、何か――。娘御の行くへは知れた、と言ふのか。
はい……。いゝえ。何分、その男がとり急いで居りまして。
この間拔け。話はもつと上手に聽くものだ。
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柔らかく叱つた。そこへ今《モ》一人の伴《トモ》が、追ひついて來た。息をきらしてゐる。
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ふん。汝《ワケ》は聞き出したね。南家《ナンケ》の孃子《ヲトメ》は、どうなつた――。
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出|端《ハナ》に油かけられた資人《トネリ》は、表情に隱さず心の中を表した此頃の人の、自由な咄し方で、まと
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