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四五十年あとまでは、唯[#(ノ)]關と言ふばかりで、何の標《シルシ》もなかつた。其があの、近江の滋賀の宮に馴染み深かつた、其よ。大和では、磯城《シキ》の譯語田《ヲサダ》の御館《ミタチ》に居られたお方。池上の堤で命召されたあのお方の骸《ムクロ》を、罪人に殯《モガリ》するは、災の元と、天若日子《アメワカヒコ》の昔語りに任せて、其まゝ此處にお搬びなされて、お埋《イ》けになつたのが、此塚よ。
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以前の聲が、まう一層皺がれた響きで、話をひきとつた。
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其時の仰せには、罪人よ。吾子《ワコ》よ。吾子の爲了《シヲフ》せなんだ荒《アラ》び心で、吾子よりももつと、わるい猛び心を持つた者の、大和に來向ふのを、待ち押へ、塞《サ》へ防いで居ろ、と仰せられた。
ほんに、あの頃は、まだおれたちも、壯盛《ワカザカ》りぢやつたに。今ではもう、五十年昔になるげな。
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今一人が、相談でもしかける樣な、口ぶりを※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]んだ。
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さいや。あの時も墓作りに雇はれた。その後
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