/\の女博士《ヲナゴハカセ》での。楚辭や、小説にうき身をやつす身や、お身は近よれぬはなう。霜月・師走の垣毀雪女《カイコボチヲナゴ》ぢやもの。――どうして其だけの女子《ヲミナゴ》が、神隱しなどに逢はうかい。
第一、場處が、あの當麻で見つかつたと言ひますからの――。
併し其は、藤原に全く縁のない處でもない。天[#(ノ)]二上は、中臣壽詞《ナカトミノヨゴト》にもあるし……。齋《イツ》き姫《ヒメ》もいや、人の妻と呼ばれるのもいや――で、尼になる氣を起したのでないか、と考へると、もう不安で不安でなう。のどかな氣持ちばかりでも居られぬて――。
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押勝の眉は集つて來て、皺一つよせぬ美しい、この老いの見えぬ貴人の顏も、思ひなし、ひずんで見えた。
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何しろ、嫋女《タワヤメ》は國の寶ぢやでなう。出來ることなら、人の物にはせず、神の物にしておきたいところぢやが、――人間の高望《タカノゾ》みは、さうばかりもさせてはおきをらぬがい――。ともかく、むざ/″\尼寺へやる訣にはいかぬ。
ぢやが、お身さま。一人出家すれば、と云ふ詞が、この頃はやりになつて居りますが……。

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