例を知っている。鶫の仲間ばかりでなく、たとえば鶉《うずら》のような鳥が藪のなかに広く分かれている時、さらに遠い岡のむこう側にまで分かれている時、なんの物音もきこえないにもかかわらず、たちまち一度に飛び去ることがあるのだ。
船乗りたちはまた、こんなことを知っている。鯨《くじら》の群れが大洋の表面に浮かんだり沈んだりしている時、そのあいだに凸形の陸地を有して数マイルを隔てているにもかかわらず、ある時には同じ刹那に泳ぎ出して、一瞬間にすべてその影を見失うことがある。信号が鳴らされた――マストの上にいる水夫やデッキにいるその仲間の耳にはあまりに低いが、それでも寺院の石がオルガンの低い音響にふるえるように、船のなかではその顫動《せんどう》を感じるのだ。
音響とおなじことで、物の色もやはりそうだ。化学者には太陽のひかりの各端に化学線《アクテニック・レイ》というものの存在を見いだすことが出来る。その線は種《しゅ》じゅの色をあらわすもので、光線の成分にしたがって完全な色を見せるのだそうだが、われわれにはそれを区別することが出来ない。人間の眼は耳とおなじように不完全な機械で、その眼のとどく程度はただわずかに染色性の一部に限られているのだ。おれは気が違っているのではない、そこには俺たちの眼にもみえない種じゅの色があるのだ。
そこで、たしかに※[#「言+虚」、第4水準2−88−74]《うそ》でない、あの妖物はそんなたぐいの色であった!
底本:「世界怪談名作集 上」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年8月4日初版発行
※底本は表題に、「妖物《ダムドシング》」とルビをふっています。
入力:もりみつじゅんじ
校正:門田裕志
2003年11月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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