ていました。むすめはお母さんの足もとの床《ゆか》の上にすわって、布切れの端《はし》を切りこまざいて遊んでいました。
「なぜパパは帰っていらっしゃらないの」
とその小さい子がたずねます。
これこそはそのわかいおかあさんにはいちばんつらい問いであるので、答えることができませんかった。おとうさんはおかあさんよりもっと深い悲しみを持って、今は遠い外国に行っているのでした。
ミシンはすこし損じてはいますが、それでも縫い進みました。――人の心臓《しんぞう》であったら出血のために動かなくなってしまうほどたくさん針《はり》が布をさし通して、一縫いごとに糸をしめてゆきます――不思議な。
「ママ今日《きょう》私は村に行って太陽が見たい、ここは暗いんですもの」
とその小さな子が申しました。
「昼過ぎになったら、太陽を拝みにつれて行ってあげますからね」
そう言えばここは、この島の海岸の高いがけの間にあって暗い所でした。おまけに住宅は松《まつ》の木陰《こかげ》になっていて、海さえ見えぬほどふさがっていました。
「それからたくさんおもちゃを買ってちょうだいなママ」
「でもたくさん買うだけのお金がないんで
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