って来た客に対しても、彼は挨拶をしなかった。それは自分が人の指揮監督を受ける身分で、対等の人間ではないからと遠慮したのである。
ゾシマ長老は別の道心とアリョーシャに伴われて出て来た。僧たちは立ち上がって、指の先が床に届くほど、きわめてうやうやしく彼に敬礼した。それから長老の祝福を受けると、その手に接吻するのであった、彼らを祝福してから、長老もやはり指が床につくくらい一人一人に会釈を返して、こっちからもいちいち祝福を求めた。こうした礼式はまるで毎日のしきたりの型のようではなく、非常に謹厳にほとんど一種の感激さえ伴っていた。しかしミウーソフにはいっさいのことが、わざとらしい思わせぶりのように見えた。彼はいっしょにはいった仲間の先頭に立っていた。で、よし彼がどんな思想をいだいているにもせよ、ただ礼儀のためとしても(ここではそれが習慣なのだから)、長老のそばへ寄って祝福を受けなければならぬ、手を接吻しないまでも、せめて祝福を乞うくらいのことはしなくてはならない――それは彼が昨夜から考えていたことである。ところが、今こうした僧たちの会釈や接吻を見ると、彼はたちまち決心を翻してしまった。そしても
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