もあったが、しかも、時おりは彼の言うことを聞くらしかった。そればかりではなく、どうかすると、身持ちが幾らかなおったかと思われることさえもあった……。
 後になってわかったことであるが、イワン・フョードロヴィッチが帰って来た一半の理由は、兄ドミトリイ・フョードロヴィッチの頼みとその用件のためであった。そのころ、生まれてはじめて兄のことを知り、顔をみたのもほとんどこの帰郷のときがはじめてであったが、しかし、ある重大な事件――といっても、主としてドミトリイ・フョードロヴィッチに関したことである――のために、モスクワから帰郷する前から文通は始めていた。それがいかなる事件であるかは、やがて読者に詳しくわかってくるはずである。とにかく、後日その特別な事情を聞き知った後でさえも、私にはイワン・フョードロヴィッチという人がやはり謎のように感ぜられ、その帰郷の理由も依然として不可解に思われた。
 つけ加えて言っておくが、イワン・フョードロヴィッチはそのころ、父と大喧嘩をして、正式裁判にまでも訴えようとしていた兄のドミトリイ・フョードロヴィッチと父との間に挾《はさ》まって、仲裁役といったような立場に立って
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