ずであった。つまり、長老にはそうする意志がなかったのである。しかし、あの礼拝は恐ろしくアリョーシャの心を打った。彼はその中に神秘的な意味の伏在することを、盲目的に信じていた。神秘的な、そしてまた恐ろしい意味かもしれない。修道院長の昼餐の始まるまでにと思って(もちろん、ただ食卓に侍するために)修道院をさして庵室の囲いの外へ出た時、急に心臓を激しく締めつけられるように覚えて、彼はその場に立ちすくんでしまった。間近に迫った自分の死を予言した長老のことばが、再び彼の耳もとで響くような気がしたのだ。長老の予言、しかもあれほどきっぱりした予言は、必ずや実現するに違いない。それはあくまでアリョーシャの信じて疑わぬところであった。しかし、この人なき後の彼はどうなるだろう? その姿を見、その声に接することなく、どうして生きられよう? それにどこへ行ったらいいのだろう? 泣かずに修道院を出て行けと長老は命じているのだ! アリョーシャはもう長いあいだこんな悩みを経験したことがなかった。彼は修道院と庵室を隔てている木立ちのあいだを急ぎ足に進みながらも、おのれの想念を持ちこたえることができなかった。それほど彼は
前へ
次へ
全844ページ中216ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中山 省三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング