かないではございませんか?」
「いや、そうではないのじゃ。あなたがこのことについて、そのように苦しみなされる……ただそれだけでたくさんなのじゃから。できるだけのことをなされば、そのうちに、うまく帳尻が合ってきますのじゃ。あなたがそれほど深く、真剣に自分というものを知ることができたからには、もはやあなたは多くのことを行なったわけになりますのじゃ! がもし、今あのように誠実に話されたのも、その誠実さをわしに褒《ほ》めてもらいたいがためだとすれば、もちろんあなたは実行的な愛の道で、何物にも到達されることはありませんぞ。すべてが空想にとどまって、一生は幻のごとくにひらめき過ぎるばかりなのじゃ。やがては来世のことも忘れ果てて、ついには勝手なあきらめに安んじてしまわれることはわかりきっておりますわい」
「あなたはわたくしをおしつぶしておしまいなされました! たった今あなたにそうおっしゃられて、わたくしははじめて気がつきました。ほんとにわたくしは、恩知らずな仕打ちを我慢することができないと白状いたしました時、自分の誠実さを褒めていただくことばかり当てにしておりました。あなたはわたくしに自分というもの
前へ 次へ
全844ページ中157ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中山 省三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング