オかも、それが日を経るにつれて、いっそういちじるしくなるのであった。だが、彼は別に、無礼な態度をとるというわけではけっしてなく、いつも非常にうやうやしい口のきき方をしていたが、どういうものか、スメルジャコフは、自分とイワン・フョードロヴィッチとがある事情について、共同関係でも持っているように思いこんでいるらしかった。そして、いつか二人のあいだに取りかわした密約というようなものでもあって、自分たち二人だけにはわかっているけれど、まわりの人間どもにはとうていわかりっこないのだ、といった風な調子で、いつも話をするようになったのである。だが、イワン・フョードロヴィッチは、自分の心にしだいに募ってくる嫌悪の原因を長いあいだ悟ることができなかったが、このごろになってようやくその真相がわかって来たのである。嫌悪と腹立たしさにじりじりしながら、彼は今無言のまま、スメルジャコフのほうを見ないようにして、耳門をくぐり抜けようと思ったのだが、その瞬間に、スメルジャコフがつとベンチから立ち上がった。その身ぶりを見ただけで、イワン・フョードロヴィッチはたちどころに、彼が何か特別な相談を持ちかけようとしているんだな、と推察した。イワン・フョードロヴィッチはちらと相手を見て立ち止まった、そして自分がつい今のさきそう思ったように、さっさと通り過ぎてしまわないで、こうして立ち止まったことを考えると、彼は身内の震えるほど腹が立ってきた。憤怒と憎悪をもって、彼はスメルジャコフの去勢僧のように痩せこけた顔や、きれいに櫛《くし》で梳《と》き上げた両|鬢《びん》や、小さい冠毛のようにふくらました前髪をじっとにらんだ。こころもち細めた左の眼はちょうど、『いかがですな、通り過ぎておしまいなさらぬところを見れば、お互いに利口なわたくしどもの中には、何か御相談ごとがあるらしゅうござんすな』とでも言っているように、薄笑いを浮かべて、またたきをしていた。イワン・フョードロヴィッチは身震いをした。
『どいてろ、やくざ野郎、おれは貴様なんぞの仲間じゃないぞ、ばか野郎!』そうどなりつけてやりたいと思ったのだが、自分ながら意外なことには、まるきり別なことばが口をついて出てしまったのである。
「どうだい、お父さんはまだ寝てるかい、それとも、もう起きたかい?」と、自分でも思いがけないくらい静かに、すなおに彼はこう言った。そして、やはり全く思いがけなく、うっかりベンチへ腰をおろしてしまった。この一瞬間、彼はほとんど恐怖に近いものを感じた。そのことは後になってもよく覚えていた。スメルジャコフは両手を背後へ回したまま、その前に立って、自信ありげなほとんどいかついくらいな眼眸《まなざし》で彼を見つめた。
「まだおやすみでございます」と彼は急《せ》かずに言った。(『口をきいたのはおまえさんのほうが先で、こちとらじゃないよ』とでも言っているようだ)「若旦那、あなたには驚いてしまいますよ」ちょっと口をつぐんでから、わざとらしく眼を伏せながら、彼はこうつけ加えると、右の足を一歩前へ踏み出して、エナメル塗りの靴の爪先を無意味に動かすのであった。
「どうして僕に驚いてしまうんだい?」イワン・フョードロヴィッチは一生懸命におのれを抑制しながら、ぶっきらぼうな荒々しい調子でこう言ったが、不意に、自分はなみなみならぬ好奇心をいだいていて、それを満足させないあいだは、どんなことがあってもこの場は離れられそうにないと気がつくと、われながらいやな気がした。
「どうして、あなたは、チェルマーシニャへお出かけになりませんので?」と、不意にスメルジャコフは眼を上げて、なれなれしくにっこり笑った。『なぜこちとらが笑ったのか、おまえさんにはわかってるはずだよ、もしおまえさんが賢い人間ならばね』そう細められた彼の左の眼が言っているように思われた。
「なんのために僕がチェルマーシニャへ行くんだ?」イワン・フョードロヴィッチはちょっとめんくらった。スメルジャコフはまたちょっと口をつぐんでいた。
「フョードル・パーヴロヴィッチのほうから、あなたにそれをお頼みになったのではありませんか」ついに彼はこうゆっくりと言ったが、自分でもこの答えをたいして重要なものとは思っていないらしい。これはただ何か言わないわけにはいかないからつまらないことをもちだしてごまかすだけだとでもいった様子であった。
「やい、こん畜生、もっとはっきり言え、貴様はどうしたいって言うんだ?」とうとうイワン・フョードロヴィッチはおとなしい態度から、荒々しい気勢に転じながら、腹立たしそうにどなった。
スメルジャコフは前へ踏み出していた右足を左足へ引きつけて、しゃんと体をまっすぐにしたが、しかし依然として落ち着きはらって薄笑いを浮かべたまま、相手の顔を見つめていた。
「いえ、別にたい
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