スとする。そのために世界の賢人――政治家、長老、学者、哲人、詩人などを呼び集めて、さあ三つの問いをくふうして作り出してくれ、しかし、それは事件の偉大さに適合しているのみならず、ただ三つのことばでもって、三つの人間のことばでもって、世界と人類の未来史をことごとく表現していなくてはならぬ、という問題を提出したとする。そうしたら世界じゅうの知恵を一束にしてみたところで、力と深みにおいて、かの強くて賢い精霊が荒野でおまえに発した、三つの問いに匹敵するようなものを考え出すことがはたしてできるかどうか、それはおまえにだってわかりそうなものではないか? この三つの問いだけから判断しても、その実現の奇跡だけから判断しても、移りゆく人間の知恵でなくて、絶対不滅の英知を向こうに回している、ということがわかるではないか。なぜなら、この三つの問いの中に人間の未来の全歴史が、完全なる一個のものとなって凝結しているうえに、地上における人間性の歴史的矛盾をことごとく包含した、三つの形態が現われているからである。もちろん、未来を測り知ることはできないから、その当時こそ、それはよくわからなかったのだけれど、それから十五世紀を経た今日になってみれば、もはや技き差しならぬほど完全に、この三つの問いの中にいっさいのことが想像されて、予言されて、しかもその予言がことごとく的中していることが、よくわかるではないか。
『いったいどちらが正しいか、自分で考えてみるがよい――おまえ自身か、それともあの時おまえに質問をしたものか? 第一の問いはどうだろう、ことばは違うかもしれぬが、こういう意味だった。※[#始め二重括弧、1−2−54]おまえは世の中へ行こうとしている、しかも自由の約束とやらを持ったきりで、空手で出かけようとしている。しかし生来単純で粗野な人間は、その約束の意味を悟ることができないで、かえって恐れている。なぜなら、人間や人間社会にとって、自由ほど耐えがたいものは他にないからである! このむき出しになって焼け果てた荒野の石を見よ。もしおまえがこの石をパンに変えることができたら、人類は上品で従順な羊の群れのように、おまえの後を追うだろう、そうしておまえが手を引いて、パンをくれなくなりはせぬか、とそのことばかりを気づかって、絶えず戦々恐々としておるに違いないぞ※[#終わり二重括弧、1−2−55]と言った。ところが、おまえは人民の自由を奪うことを欲しないで、その申し出をしりぞけてしまった。おまえは、もし服従がパンで購《あがな》われたものならば、どうして自由が存在し得るか、という考えだったのだ。そのときおまえは人はパンのみにて生くるものにあらずと答えたが、しかし、この地上のパンの名をもって、地の精霊がおまえに反旗を翻し、おまえと戦って勝利を博するのだ。そしてすべてのものは、※[#始め二重括弧、1−2−54]この獣に似たるものこそ、天より火を盗みてわれらに与えたるものなり※[#終わり二重括弧、1−2−55]と絶叫しながら、その後に従って行くのをおまえは知らないのか。長い年月の後に、人類はおのれの知恵と科学の口をかりて、犯罪もなければ、罪障もない、ただ飢えたる者があるばかりだ、と公言するだろうことをおまえは知らないのか。※[#始め二重括弧、1−2−54]食を与えよ、しかる後われらに善行を求めよ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と書いた旗を押し立てて、人々はおまえに向かって暴動を起こす。そしてその旗がおまえの寺を破壊するのだ。おまえの寺の跡には、やがて新しい建築ができる。そしてさらに恐ろしいバビロンの塔が築かれるのだ。もっとも、この塔も以前の塔と同じように落成することはあるまいが、それにしても、おまえはこの新しい塔の建築を差し止めて、人類の苦痛を千年だけ短縮することができるはずなのだ。なぜならば、彼らは千年のあいだ、自分の塔のために苦しみ通したあげく、われわれの所へ帰って来るに違いないからだ! そのとき彼らは再び地下の墓穴の中に隠れているわれわれを捜し出すだろう(われわれは再び迫害を受け、苦しめられるからだ)。彼らは捜し出したらわれわれに向かって、※[#始め二重括弧、1−2−54]わたくしどもに食物をください、わたくしどもに天国の火を取って来てやると約束した者が、嘘をついたのです※[#終わり二重括弧、1−2−55]と絶叫するだろう。その時、はじめてわれわれが彼らの塔を落成さしてやるのだ。なぜなら、それを落成さすことのできるのは、彼らに食を与える者のみで、われわれはおまえの名をもって、彼らに食を与えてやるからだ。しかしおまえの名をもってと言うのは、ほんの出まかせにすぎないのだ。そうとも、われわれがいなかったら、彼らは永久に食を得ることができないのだ! 彼らが自由であるあいだは、
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