も必ず起こることですけれど、そうしたら、わたしのところへいらっしってもかまいませんわ、わたしお友だちとして、妹としてあの人を迎えます。……もちろん、ほんの妹というだけのことですわ、それはもういつまでも、そのとおりですの。わたしが本当の妹だということを、――一生涯を犠牲にしてまでもあの人を愛していることを、最後にはあの人にもわかっていただきたいんです。わたしは、この目的をどうしてもやり遂げます。あの人が、しまいにはわたしの本心をわかってくだすって、なんの遠慮もなしに、何もかも、わたしに打ち明けるように、是が非でもしてみせるつもりです!」彼女はのぼせているかのように叫んだ。「わたしはあの人の神になって、あの人にお祈りをさせます、――それは少なくとも、あの人の義務です。だって、あの人がわたしにそむいたおかげで、昨日あんなひどい目にあったんですもの。わたしはあの人に、わたしが一度約束したことばを守って、一生涯あの人に忠実にしているのに、あの人が間違った考えをもって、わたしにそむいてしまったことを、一生のあいだに、よくよくわからせてあげたいのです。わたしは、……わたしは、ただもうあの人の幸福の手段になるばかりです(どう言ったらいいでしょうね)、あの人の幸福の道具になります、器械になります。これは一生涯、本当に一生涯、死ぬまで同じことです。そしてあの人にこのさき一生涯のあいだ、それを見ててもらいます! これがわたしの決心なのでございます! イワンさんはこの決心に賛成をしてくださいました」
彼女は息を切らしていた。おそらく、彼女はもっともっと品位を保って、もっと巧妙に、もっと自然に、自分の考えを話しするつもりであったろう。しかるに、結局、あまりにも性急に、あまりにも露骨なものとなってしまったのである。おとなげなく感情に走りすぎたような点も多かったし、ただ昨日の癇癪《かんしゃく》のなごりにすぎないような点も、ただの空威張《からいば》りにすぎないような点も多かった。彼女自身も、それに気がついたので、なんとなくその顔は、急に暗くなり、眼つきも悪くなってきた。アリョーシャはすぐに、それに気がついて、同情の念が心の中でかすかに動くのを感じた。ちょうどそのとき、兄のイワンもそばから口を出した。
「僕はただ自分の考えを述べただけです」と彼は言った、「これがもし、ほかの女であったら、ごつごつして、きれぎれなものになったでしょうが、あなただったから違うのです。ほかの女だったら、嘘になったでしょうが、あなただったから正しいのです。僕はなんと理由をつけたらよいかわかりませんが、あなたがこのうえもなく真心があり、それゆえにまた正しいということは、ようくわかってます」
「でも、それはただこの一瞬間だけじゃありませんか……しかも、ほんのこの一瞬間というのは、どんなときでしょう? 何もかも昨日の侮辱、――それがこの一瞬間というものの意味なんです!」見受けたところ、さし出がましいことを言うまいと決心していたらしいホフラーコワ夫人も、こらえきれなくなって、不意にかなりに正当な意見を述べた。
「そうです、そのとおりです」話の途中に口を出されたのが不服だったらしく、イワンは急に一種の熱をもって、さえぎった、「全くそうです、しかし、ほかの人であったら、この一瞬間も、要するに昨日の印象にすぎないかもしれません、ほんの一瞬間にすぎないかもしれません。しかしカテリーナさんのような性格のおかたは、この一瞬間は、ついに一生涯に及ぶはずです。ほかの人には、ただの約束にすぎないようなことが、このかたには永久に変わることのない、つらい、苦しい、おそらく、たゆむことのない義務になるのです。カテリーナさん、あなたの生活は、今のうちこそ、自分の感情や自分自身の手柄や、悲しみに包まれて、つらいでしょうけれど、そのうち、この苦しみはだんだんに柔らいでいって、ついには、きっぱりした、誇るべき企てを永久に果たしたという楽しい思いに満たされるようになりますよ。たしかに、この企ては、あの意味では、誇らかなものです。とにもかくにも、自暴自棄的なものですが、あなたはそれを征服してしまったのですから、この気持は最後に至って、十分な満足をあなたに与えて、そのほかいっさいの苦痛をあきらめさせてくれるでしょうよ……」
彼は一種の悪意を示して、きっぱりと言い放った。明らかに、わざとらしかったが、わざと冷笑的な調子で言ってやろうという気持を、隠すつもりさえもなかったのであろう。
「まあ、とんでもない、それはみんなたいへんな勘違いですよ!」とホフラーコワ夫人は叫んだ。
「アレクセイさん、あなたもなんとかおっしゃってください! わたしはあなたがなんとおっしゃるか、それが伺いたくてたまらないんですの!」とカテリーナは叫ぶなり、さめ
前へ
次へ
全211ページ中138ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中山 省三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング