sだらし》ない雨はふる、ふりそそぐ、にじむ、曳く、消ゆる、滴《したた》る。
酸《す》つぱい麦酒《ビール》のやうな気の抜けた雨。
いそぎんちやくの液《しる》のむづかゆい雨。
黴《かび》くさいインキいろの青い雨。
雨……雨……雨……
雨はふる……雨はふる……
酸敗《す》えかかつた橡《とち》の葉の繊維《せんゐ》に蛞蝓《なめくじ》の銀線《ぎんせん》を曳き、
臭《くさ》い栗の花の白金《プラチナ》を腐らし、
鉄粉《てつぷん》のやうに光る芝生の土に沁み込み、
青い古池の面《おもて》に怪《あや》しい笑《わらひ》を辷らせ、
せうことなしに雨はふる、ふりそそぐ、何時までも何時までも小止《をや》みなく……

陰気な黴くさい雨、長い雨……日ぐらしの雨……
ともすると疲《つか》れきつた悲愁《かなしみ》の裏《うら》から
微《ほの》かな日光の金《きん》を投げかくる雨。
雨のふる廃園《はいゑん》の木立の暗《くら》い緑《みどり》色の空間《スペース》。
その洞《ほら》のやうな葉かげの恐怖にふりそそぐ雨。……
折から、ひよいと、花やかに
地《ち》より身軽《みかろ》なひるがへり、躍り出したる怪《け》のものが
突拍子《とつぺし
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