吹B
さうして女がゆく、
すずしい白《しろ》のスカアト
その手《て》に持《も》つた赤皮《あかがは》の瀟洒《せうしや》な洋書《ほん》、
いつかしら汗《あせ》ばんだこころに
異国趣味《エキゾチツク》な五|月《ぐわつ》が逝《ゆ》く……
新《あたら》しい銀座《ぎんざ》の夏《なつ》、
かなしくよるべなき人工《じんこう》の花《はな》、――石竹《せきちく》と釣鐘艸《つりがねくさ》。
[#地から3字上げ]四十三年五月
六月
白い静かな食卓布《テエブルクロース》、
その上のフラスコ、
フラスコの水に
ちらつく花、釣鐘草《つりがねさう》。
光沢《つや》のある粋《いき》な小鉢の
釣鐘草《つりがねさう》、
汗ばんだ釣鐘草、
紫の、かゆい、やさしい釣鐘草、
さうして噎《むせ》びあがる
苦い珈琲《カウヒイ》よ、
熱《あつ》い夏のこころに
私は匙を廻す。
高※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]の日被《マルキイズ》
その白い斜面の光から
六月が来た。
その下の都会の鳥瞰景《てうかんけい》。
幽かな響がきこゆる、
やはらかい乳房の男の胸を抑《をさ》へつけるやうな……
苦い珈琲よ、
かきまわしなが
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