sそと》をうち凝視《みつ》む。
そが背後《うしろ》の棚《たな》の上《うへ》、やや青《あを》みたる陰影《いんえい》の中《うち》、
ニツケルの産科《さんくわ》の器械《きかい》鵞《が》のごとき嘴《はし》して光《ひか》り、
薄《うす》く曇《くも》れる硝子《がらす》のなかにとりあつめたる薬剤《やくざい》の罎《びん》、
その青《あを》く赤《あか》くおぼめける劇薬《げきやく》のエチケツテ……鋭《するど》く、苦《にが》し。
ああ骨《ほね》なし児《ご》よ。この薄暮《くれがた》の反射《はんしや》に、
柔軟《やはら》かにして悩《なや》ましき汝《な》が衾《ふすま》は銀《ぎん》の潤沢《しめり》に光《ひか》れど、
冷《ひや》やかなる鉄《てつ》の寝台《ねだい》の上《うへ》、据《す》ゑられし木造《きづくり》の函《はこ》は、
汝《な》が身《み》を入《い》れたる小《ちひ》さき牢獄《ひとや》は山葵色《わさびいろ》の曇《くもり》にうち歎《なげ》く。
大人《おとな》びたる顔《かほ》の白《しろ》き白《しろ》き白粉《おしろい》の恐《おそ》ろしさよ。
なよなよと凭《もた》せたる身体《からだ》のしまりなさ。
霊《たましひ》の青《あを》さ、いたましさ、
生温《なまぬ》るき風《かぜ》のごと骨《ほね》もなき手《て》は動《うご》く――その空《そら》に※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]銀《しやうぎん》の鐘《かね》はかかれり。
ああ、ああ、今《いま》しがたまでぞ、この硝子戸《がらすど》の外《そと》には
五|時《じ》ごろの日《ひ》の光《ひかり》わかわかしき血《ち》のごとくふりそそぎ、
見《み》えざる窓下《まどした》のあたりより、
抑圧《おさ》えあへぬ抱擁《はうえう》の笑《わら》ひ声《ごゑ》きこえしか――葱畑《ねぎばたけ》すでに青《あを》し。
※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]銀《しやうぎん》の鐘《かね》よりは一条《ひとすぢ》の絹《きぬ》薄青《うすあを》く下《さが》りて光《ひか》る。
その端《はし》をはづかに取《と》りたる手《て》は、その瞳《ひとみ》は、
ああ、すべて力《ちから》なし。――さらにさらに痛《いた》ましきはかかる青《あを》き薄暮《くれがた》の激《はげ》しき官能《くわんのう》の刺戟《しげき》。
聴《き》け、遂《つひ》に、彼《かれ》は泣《な》く。……
あらず、そは馴染《なじ》みたる黒猫《くろねこ
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