爪紅
 夕日
 紙きり蟲
 わが部屋
 監獄のあと
 午後
 アラビヤンナイト物語
 敵
 たそがれどき
 赤き椿
 二人
 たはむれ
 苅麥のにほひ
 青い鳥

TONKA JOHN の悲哀
 春のめざめ
 秘密
 太陽
 夜
 感覺
 晝のゆめ
 朱欒のかげ
 幻燈のにほひ 
 雨のふる日
 BALL
 尿する和蘭陀人
 水中のをどり
 怪しき思
 金縞の蜘蛛
 兄弟
 思
 水銀の玉
 接吻の後
 たんぽぽ

柳河風俗詩
 柳河
 櫨の實
 立秋
 水路
 酒の黴
 一、金の酒をつくるは
 二、からしの花の實になる
 三、酒袋を干すとて
 四、※[#「酉+元」、第3水準1−92−86、LXII−11]すり唄のこころは
 五、麥の穗づらにさす日か
 六、人の生るるもとすら
 七、からしの花も實となり
 八、櫨の實採の來る日に
 九、ところも日をも知らねど
 十、足をそろへて磨ぐ米
 十一、ひねりもちのにほひは
 十二、微かに消えゆくゆめあり        
 十三、さかづきあまたならべて
 十四、その酒のその色のにほひの
 十五、酒を釀すはわかうど
 十六、ほのかに忘れがたきは          
 十七、酒屋の倉のひさしに
 十八、カンカンに身を載せて
 十九、かなしきものは刺あり  
 二十、目さまし時計の鳴る夜に
 二十一、わが眠る倉のほとりに
 二十二、倉の隅にさす日は
 二十三、青葱とりてゆく子を
 二十四、銀の釜に酒を湧かし
 二十五、夜ふけてかへるふしどに
 酒の精
 紺屋のおろく
 沈丁花
 NOSKAI
 かきつばた
 AIYANの歌
 曼珠沙華
 牡丹
 氣まぐれ
 道ゆき
 目くばせ
 あひびき
 水門の水は
 六騎
 梅雨の晴れ間
 韮の葉
 旅役者
 ふるさと
[#改丁」


序 詩
[#改頁]


思ひ出は首すぢの赤い螢の
午後《ひるすぎ》のおぼつかない觸覺《てざはり》のやうに、
ふうわりと青みを帶びた
光るとも見えぬ光?

あるひはほのかな穀物《こくもつ》の花か、
落穗《おちぼ》ひろひの小唄か、
暖かい酒倉の南で
ひき揉《む》しる鳩の毛の白いほめき?

音色《ねいろ》ならば笛の類《るゐ》、
蟾蜍《ひきがへる》の啼く
醫師の藥のなつかしい晩、
薄らあかりに吹いてるハーモニカ。

匂ならば天鵝絨《びらうど》、
骨牌《かるた》の女王《クイン》の眼《め》、
道化たピエローの面の
なにかしらさみしい感じ。

放埓《ほうらつ》の日のやうにつらからず、
熱病のあかるい痛《いた》みもないやうで、
それでゐて暮春のやうにやはらかい
思ひ出か、たゞし、わが秋の中古傳説《レヂエンド》?
[#改頁]


骨牌の女王  童謠
[#改頁]


 金の入日に繻子の黒


金《きん》の入日に繻子《しゆす》の黒――
黒い喪服《もふく》を身につけて、
いとつつましうひとはゆく。
海のあなたの故郷《ふるさと》は今日《けふ》も入日のさみしかろ。
夏のゆく日の東京に
茴香艸《うゐきやうさう》の花つけて淡い粉《こな》ふるこのごろを、
ほんに品《しな》よきかの國のわかい王《キング》もさみしかろ。
心ままなる歌《うた》ひ女《め》のエロル夫人もさみしかろ。

金《きん》の入日に繻子の黒、――
黒い喪服《もふく》を身につけて
いとつつましうひとはゆく。
九月の薄き弱肩《よわがた》にけふも入日のてりかへし、
粉《こな》はこぼれてその胸にすこし黄色くにじみつれ。
金の入日に繻子の黒、
かかるゆふべに立つは誰ぞ。


 骨牌の女王の手に持てる花


わかい女王《クイン》の手にもてる
黄なる小花ぞゆかしけれ。
なにか知らねど、蕋《しべ》赤きかの草花のかばいろは
阿留加里《アルカリ》をもて色變《いろか》へし愁《うれひ》の華《はな》か、なぐさめか、
ゆめの光に咲きいでて消ゆるつかれか、なつかしや。

五月ついたち、大蒜《にんにく》の
黄なる花咲くころなれば
忠臣藏の着物《きもの》きて紺の燕も翔るなり、
銀の喇叭に口あててオペラ役者も踊るなり。
されど晝餐《ひるげ》のあかるさに
老孃《オウルドミス》の身の薄くナイフ執るこそさみしけれ。

西の女王《クイン》の手にもてる
黄なる小花ぞゆかしけれ。
何時も哀《かな》しくつつましく摘みて凝視《みつ》むるそのひとの
深き目つきに消ゆる日か、過ぎしその日か、憐憫《あはれみ》か、
老孃《オウルドミス》の身の薄くひとりあるこそさみしけれ。


 燒栗のにほひ


玉乘の兒よ、戲奴《ヂヤウカウ》よ、身振をかしき鈴振《りんふり》よ。
また、いはけなき曲馬の兒、
赤き上着《うはぎ》にとり澄ます銀笛吹きの童らよ。

げにげに汝《なれ》ら、しをらしく、あるはをかしく、おもしろく、
戲《たは》れ浮かれて鄙びたる下司《げす》のしら
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