《な》も知らむ。
このさんた・くるすは、かなた
檳榔樹《びろうじゆ》の実《み》の落つる国、
夕日《ゆふひ》さす白琺瑯《はくはふらう》の石の階《はし》
そのそこの心の心、――
えめらるど、あるは紅玉《こうぎよく》、
褐《くり》の埴《はに》八千層《やちさか》敷ける真底《まそこ》より、
汝《な》が愛を讃《たた》へむがため、
また、清き接吻《くちつけ》のため、
水晶の柄《え》をすげし白銀《しろかね》の鍬をもて、
七つほど先《さき》の世《よ》ゆ世を継《つ》ぎて
ひたぶるに、われとわが
採《と》りいでし型《かた》、
その型《かた》を
汝《な》に捧《ささ》ぐ、
女子《をみなご》よ。
ただ秘めよ
曰《い》ひけるは、
あな、わが少女《をとめ》、
天艸《あまくさ》の蜜《みつ》の少女《をとめ》よ。
汝《な》が髪は烏《からす》のごとく、
汝《な》が唇《くち》は木《こ》の実《み》の紅《あけ》に没薬《もつやく》の汁《しゆ》滴《したた》らす。
わが鴿《はと》よ、わが友よ、いざともに擁《いだ》かまし。
薫《くゆり》濃《こ》き葡萄の酒は
玻璃《ぎやまん》の壺《つぼ》に盛《も》るべく、
もたらしし麝香《じやかう》の臍《ほぞ》は
汝《な》が肌の百合に染めてむ。
よし、さあれ、汝《な》が父に、
よし、さあれ、汝《な》が母に、
ただ秘《ひ》めよ、ただ守れ、斎《いつ》き死ぬまで、
虐《しひたげ》の罪の鞭《しもと》はさもあらばあれ、
ああただ秘《ひ》めよ、御《み》くるす[#「くるす」に傍点]の愛《あい》の徴《しるし》を。
さならずば
わが家《いへ》の
わが家《いへ》の可愛《かあ》ゆき鴿《はと》を
その雛《ひな》を
汝《なれ》せちに恋ふとしならば、
いでや子よ、
逃《のが》れよ、早も邪宗門《じやしゆうもん》外道《げだう》の教《をしへ》
かくてまた遠き祖《おや》より伝《つた》ヘこし秘密《ひみつ》の聖磔《くるす》
とく柱より取りいでよ。もし、さならずば
もろもろの麝香《じやかう》のふくろ、
桂枝《けいし》、はた、没薬《もつやく》、蘆薈《ろくわい》
および乳《ちち》、島の無花果《いちじゆく》、
如何に世のにほひを積むも、――
さならずば、
もしさならずば――
汝《なれ》いかに陳《ちん》じ泣くとも、あるは、また
護摩《ごま》※[#「火+主」、第3水準1−87−40]《た》き修し、伴天連《ばてれん》の救《すくひ》よぶとも、
ああ遂に詮《せん》業《すべ》なけむ。いざさらば
接吻《くちつけ》の妙《たへ》なる蜜《みつ》に、
女子《をみなご》の葡萄の息《いき》に、
いで『ころべ』いざ歌へ、わかうどよ。
嗅煙艸
『あはれ、あはれ、深江《ふかえ》の媼《おば》よ。
髪も頬《ほ》も煙艸色《たばこいろ》なる、
棕櫚《しゆろ》の根に蹲《うづく》む媼《おば》よ。
汝《な》が持てる象牙《ざうげ》の壺《つぼ》は
また薫《くゆ》る褐《くり》なる粉《こな》は
何ぞ。また、せちに鼻つけ
涙垂れ、あかき眼《め》擦《す》るは。』
このときに渡《わたり》の媼《おうな》
呻《によ》ぶらく。『わが葡萄牙《ほるとがる》、
こを嗅《か》ぎてわかきは思ふ。』
『さらば、汝《な》は。』『責《せ》めそ、さな、さな、
養生《やしなひ》を骸《から》はただ欲《ほ》れ。
さればこそ、この嗅煙艸《かぎたばこ》。』
鵠
わかうどなゆめ近よりそ、
かのゆくは邪宗《じやしゆう》の鵠《くぐひ》、
日のうちに七度《ななたび》八度《やたび》
潮《うしほ》あび化粧《けはひ》すといふ
伴天連《ばてれん》の秘《ひそ》の少女《をとめ》ぞ。
地になびく髪には蘆薈《ろくわい》、
嘴《はし》にまたあかき実《み》を塗《ぬ》る
淫《みだ》らなる鳥にしあれば、
絶えず、その真白羽《ましろは》ひろげ
乳香《にふかう》の水したたらす。
されば、子なゆめ近よりそ。
視よ、持つは炎《ほのほ》か、華《はな》か、
さならずば実《み》の無花果《いちじゆく》か、
兎《と》にもあれ、かれこそ邪法《じやはふ》。
わかうどなゆめ近よりそ。
日ごとに
日ごとにわかき姿《すがた》して
日ごとに歌ふわが族《ぞう》よ、
日ごとに紅《あか》き実《み》の乳房《ちぶさ》
日ごとにすてて漁《あさ》りゆく。
黄金向日葵
あはれ、あはれ、黄金《こがね》向日葵《ひぐるま》
汝《みまし》また太陽《ひ》にも倦《あ》きしか、
南国《なんごく》の空の真昼《まひる》を
かなしげに疲《つか》れて見ゆる。
一※[#「火+主」、第3水準1−87−40]
香炉《かうろ》いま
一※[#「火+主」、第3水準1−87−40]《いつす》のかをり。
あはれ、火はこころのそこに。
さあれ、その
一※[#「火+主」、第3水準1−87−40]《いつす》のけむり、
かの空《そら》
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