にあかる薄闇《うすやみ》。

初恋の燃《も》ゆるためいき、
帯の色、身内《みうち》のほてり。
[#ここで字下げ終わり]

だらり[#「だらり」に傍点]の姿《すがた》おぼろかになまめき薫《く》ゆる舞姫《まひひめ》の
ほのかに今《いま》したたずめば、本尊仏《ほんぞんぶつ》のうすあかり
静《しづ》かなること水のごと沈《しづ》みて匂ふ香《か》のそらに、
仰《あふ》ぐともなき目見《まみ》のゆめ、やはらに涙さそふ時《とき》。

[#ここから2字下げ]
甍《いらか》より鴿《はと》か立ちけむ、
はたはたとゆくりなき音《ね》に。

ふとゆれぬ、長《たけ》の振袖《ふりそで》
かろき緋《ひ》のひるがへりにぞ、

ほのかなる香炉《かうろ》のくゆり、
日のにほひ、燈明《みあかし》のかげ、――

もろもろの光はもつれ、
あな、しばし、闇にちらぼふ。
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]四十年七月


  懶き島

明けぬれどものうし。温《ぬる》き土《つち》の香を
軟風《なよかぜ》ゆたにただ懈《たゆ》く揺《ゆ》り吹くなべに、
あかがねの淫《たはれ》の夢ゆのろのろと
寝恍《ねほ》れて醒《さ》むるさざめ言《ごと》、起《た》つもものうし。

眺むれどものうし、のぼる日のかげも、
大海原《おおうなばら》の空|燃《も》えて、今日《けふ》も緩《ゆる》ゆる
縦《たて》にのみ湧《わ》くなる雲の火のはしら
重《おも》げに色もかはらねば見るもものうし。

行きぬれどものうし、波ののたくりも、
懈《たゆ》たき砂もわが悩《なやみ》ものうければぞ、
信天翁《あはうどり》もそろもそろの吐息《といき》して
終日《ひねもす》うたふ挽歌《もがりうた》きくもものうし。

寝《ね》そべれどものうし、円《まろ》に屯《たむろ》して
正覚坊《しやうがくばう》の痴《しれ》ごこち、日を嗅《か》ぎながら
女らとなすこともなきたはれごと、
かくて抱けど、飽《あ》きぬれば吸ふもものうし。

貪《むさぼ》れどものうし、椰子《やし》の実《み》の酒も、
あか裸《はだか》なる身の倦《た》るさ、酌《く》めども、あほれ、
懶怠《をこたり》の心の欲《よく》のものうげさ。
遠雷《とほいかづち》のとどろきも昼はものうし。

暮れぬれどものうし、甘き髪の香も、
益《えう》なし、あるは木を擦《す》りて火ともすわざも。
空腹《ひだるげ》の心は暗《くら》きあなぐらに
蝮《
前へ 次へ
全61ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング