れい》な若いお月様の小母さまに、みんながお飯《まんま》を見せびらかしたり、またいろんなものをせびつたりします。やはり子供の小母さまですから。
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お月様《つきさま》。
観音堂《くわんのんだう》下《お》りて、
飯《まんま》上《あ》がれ。
飯《まんま》はいやいや。
あんもなら三つくりよ。(信濃)
※[#ビュレット、1−3−32]
お月様《つきさま》。お月様《つきさま》。
赤《あか》い飯《まんま》いやいや。
白《しろ》い飯《まんま》いやいや。
銭形《ぜにがた》金形《かねがた》ついた
お守《まも》りくんさんしよ。(岩代)
※[#ビュレット、1−3−32]
あとさん。なんまいだ。
ぜぜ一|文《もん》おくれ。
油《あぶら》買《か》つて進《しん》じよ。(肥前)
※[#ビュレット、1−3−32]
どうでやさん。どうでやさん。
赤《あか》い衣服《べべ》下《くだ》んせ。
白《しろ》い衣服《べべ》下《くだ》んせ。(陸中)
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そのお月様は、紅《あか》いのに桃色だと云つたとて、プリプリ怒つたのもあります。
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お月様《つきさま》桃色《ももいろ》。
誰《だれ》が云《い》つた。
海女《あま》が云《い》うた。
海女《あま》の口《くち》ひきさけ。(尾張)
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それから、
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大事《だいじ》なお月《つき》さま、
雲《くも》めがかくす。
とても隠《かく》すなら、
金屏風《きんびやうぶ》でかくせ。(東京)
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といふのがありませう。ほんとに金屏風でなくては、あの若い小母さまには似合はないでせうね。いかにも昔のお江戸の子供が謡つたやうでせう。気象《きしやう》が大きくておほまかで、張《はり》があつて、派出《はで》で。
「兎《うさぎ》うさぎ」といふのも御存じでせうね。
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兎《うさぎ》。うさぎ。
何《なに》見《み》て跳《は》ねる。
十五夜《じふごや》お月《つき》さま
見《み》て跳《は》ねる。ピヨン/\。
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ほんとに、お月夜の兎のよろこびと云つたらありません。両耳を立てて、草の香の深い中から、ピヨン/\と跳ねて飛んで出る、あの白い綿のやうな兎さんもかはいいものです。それにしても、あのまアるいお月さまの中には、いつも兎が杵《きね》をもつて餅を搗《つ》いてゐる筈でしたね。
底本:「日本の名随筆58 月」作品社
1987(昭和62)年8月25日第1刷発行
底本の親本:「北原白秋全集 第一六巻」岩波書店
1985(昭和60)年6月
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2006年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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